「日本が生き残る道は金融の強化以外にない」−−東京証券取引所グループ社長 斉藤 惇
日本の金融・資本市場でビッグバン(金融大改革)が宣言されてから12年。「米欧に追いつけ」と進められた改革だったが、今も日本は海外市場との競争で明らかに後れを取る。状況を打開しようと、政府は金融庁が昨年末に策定した「金融・資本市場競争力強化プラン」に沿って、金融商品取引法の改正作業を進めている。あらためて国際化・活性化に軸足を置き、欧米やアジアの金融市場に対抗する狙いだ。
東京証券取引所グループは、強化プランの中核的存在。プロ向け市場の創設などで、世界のマネーを日本に招き入れる役割を担う。東証自身も来年に予定されている株式上場計画や、今年4月からスタートした3カ年の中期経営計画の完遂が求められている。野村証券、産業再生機構で辣腕を振るった斉藤惇社長が迎える2年目。彼が考える東証改革と日本市場改革の方向性とは。
--日本市場、東京市場の競争力を考えるとき、それは上場している会社が魅力的かどうかが重要であって、東証のような“ハコ”の整備は二の次だという見方を“身内”の証券界からも聞くことがあります。
「よい会社があれば株式市場は活性化する」という理論は、半分正しいが半分正しくない。現実に米国にはよい企業があるが、ニューヨーク証券取引所(NYSE)は競争力をなくしつつある。今やNYSE上場銘柄の取引は、NYSEを介さない売買が50%近い。新規株式公開(IPO)の世界シェアでも、ピーク時のNYSEは過半以上だったが、今は13~15%まで低下しています。
--半分は正しい。
確かに日本株は内外から買われていない。その理由はROE(株主持ち分利益率)が低いから。世界中を見渡しても、低位ROE株が長期的に高値で取引された事例はない。
ROEというのはROA(総資産利益率)にデットエクイティレシオ(DEレシオ=有利子負債/株主持ち分)を積算した数値で、もっと詳しく言えば「ROA+(ROA・金利)×DEレシオ」に分解できる。この方程式からわかるように、金利よりROAが高くないといけないのに、日本企業には金利よりROAが低い会社もある。つまり、おカネを借りてきても、金利分の利益すら生んでいないわけです。
まして株主資本はリスクプレミアムがつくから、銀行から借りる金利よりコストは高い。銀行に貯金していれば安全な資金を、株主はあえて投資しているのだから、そのリスクに見合ったリターンを還元しなければならない。したがって、ずっと株価が上がるような経営、つまりROAを上昇させることが義務づけられている。それをいまだに経営者や財界人、官僚、政治家もよくわかっていないことが日本の問題だと思う。
--日本社会は株主主権の考え方に抵抗感があります。
「ROAを最大化することは社会的正義であり経営者の最大の責任である」と言ったら、米国人はそのとおりだと言う。英国人は「まあそうだろう」。フランス人は「半々だな」。ドイツ人と日本人は「そうかな? 」。そんなところでしょう(笑)。
--啓蒙しなきゃいけない?
やはり外国のカネを日本に呼び込まないといけない。海外から1兆円が流入すれば、それが信用創出をして3兆~5兆円の価値を生む。逆に1兆円が日本から流出すれば3兆~5兆円を失うのと同じです。