「日本が生き残る道は金融の強化以外にない」−−東京証券取引所グループ社長 斉藤 惇
--日本社会は外資アレルギーが強い。海外マネーに開かれた市場が本当に必要だと考えている人は、多くはないかもしれません。
日本はいい国です。これだけ安全な国はない。文化もすばらしい。私も日本人として誇りに思う。しかし、それにこだわっては、もはや生きていけないことを認めざるをえない。
政治家も財務官僚も日本の財政はデットレシオが170%だ、大変だ、財政健全化が必要だと言う。しかし、その意味がどれだけ理解されているか。財政健全化なんて言わずに、「あなたは紙切れの上で生活している」と言えばいい。日本の税収はせいぜい40兆円あるかないか。なのに毎年80兆円を使っている。足らない40兆円は国債という紙切れですよ。これは10年、20年、30年必ず満期がある。取り立てがある。「外国から借りているわけではない」と強気な人もいますが、日本人同士ならいいのか。必ず誰かがその取り立てを受けるんです。
--次の世代から借りている。
まさしくどなたかが言った「幼児虐待」です。まだ生まれていない子供にも負荷をかけている。
--そうした日本の課題と市場の競争力強化はどう結びつきますか。
社会はすでに脱工業化社会に突入しています。われわれはどんな戦略を持てばいいのか。ビル・ゲイツがウィンドウズを世に送り出してから20年ぐらいしか経っていないのに、IT産業の主導権は中国人とインド人が握りつつある。英国はそれを自覚していて、どうしたら自分でおカネを生み出すことができるかを考えた。米国もITだけでは食えなくなり、自分で稼いだカネをもっとうまく使って国民の豊かさの源泉にしようとしている。
一方、人件費の高い日本のメーカーは、海外に出ていかないと勝てない。日本の就業者数6500万人のうち、製造業には1300万人ぐらいが従事していますが、すでに海外での雇用が500万人近くになっている。製造業で働く日本人は、将来は1000万人を切ってくる。
そういう事態に備えるためにどうすべきか。私は金融業の強化だと思う。英国ほど金融に偏らなくてもいいが、今は約300万人いる金融・不動産業の労働者を、500万~700万人ぐらいまで増やさないといけない。だって、雇用は流出するけど、日本人の大多数はこの島に残っているんです。
金融産業、それもこれからの日本に必要なのは運用です。日本の年金資金は、企業年金基金と国民年金を合わせると300兆円を超える。世界最大です。これを最大限に運用すれば、日本はものすごく活性化する。たとえば、(株や債券などの)平均的な運用利回りは年10%程度。平均で運用しても、年間30兆円のおカネが生まれることになる。消費税を1%上げても税収は2兆円が入るかどうかですから、日本が今何をやらなければならないかは、もう明白だと思いますね。
--金融・サービス産業が活性化すると、われわれはまずどんな変化を実感しますか。英シティが急速に膨張したようなイメージですか。
同じです。そこに情報とおカネが入ってくるようになる。そして経済が回り始める。たとえば法律事務所や会計事務所、レストラン、オフィス、ホテルなどの需要やそれに伴う雇用が生まれる。今、東京・丸の内や大手町近辺はとても栄えて地価も上がっていますが、これは外国人がおカネを持ってきたからです。彼らがいないほかの地域はそうじゃない。私が横浜市長ならタックスエクゼンプト(課税除外)のゾーンをつくるな。丸の内なんかよりこっちがいいですよと。彼らが来れば、仕事には税金をかけられないが、彼らがオフィスを借り、居住し、宿泊し、メシを食うことで経済は回る。