Facebook新社屋、「日本人画家」起用の理由 テック企業とアートの密接な関係とは?

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当地のアートシーンは、世界から切り離された「ローカル」で実験的な点が特徴だった。確かにサンフランシスコは都会だが、ニューヨークやロサンゼルスのような大都会ではない。商業的な評価以上に、ストリートでどう評価されるかが重要であり、コミュニティの結束が強かった。

しかしここ数年の間、界隈は衰弱してきた。サンフランシスコの「異常」というレベルを超えた地価高騰は、ギャラリーを潰し、アーティストを追い出し、街にあるアートコミュニティーを破壊してきたからだ。さらに、サンフランシスコ現代美術館(SFMoMA)の改装による閉鎖に加えて、UCバークレーの美術館(BAM)も閉鎖。「こんな小さな街の主たる美術館が2つとも閉まってるなんて」とコミュニティ全体が将来への希望を失いかけてるほど、アートシーンの衰退は明白だった。

サンフランシスコのアートシーンは復活する

2016年は、一気に息を吹き返すと期待されている。SFMoMAもBAMも新装オープンし、SFMoMAの近くには、地元のBerggruenや、ニューヨークのGagosianといった有力なギャラリーが進出した。またアート空白地帯といわれてきたシリコンバレーの街パロアルトには、これまたニューヨークで有力なペース(PACE)がギャラリーを作った。ここでは、デジタルとアートの融合をテーマに日本のチーム・ラボが個展を行っている。

また、アートシーンに対する投資も行われている。シリコンバレーのベンチャーキャピタリストとその妻であるアンディ・ラパポート氏とデボラ・ラパポート氏は、ドックパッチ地区の3つの倉庫を、ギャラリーとアーティストに対して、経済的持続性を保証して貸し出し、アート拠点を作り出す「ミネソタストリートプロジェクト」を進めている。

そしてフェイスブックのArtist in Residenceがある。特にフェイスブックの取り組みは、アーティストの発掘だけでなく、そのアートがコミュニティの中でどのように機能するかが設計されており先進的だ。しかもコミュニティを重視する点で、サンフランシスコらしいアートの楽しみ方を実践している。

デザインは、テクノロジーにとってなくてはならない要素として取り込まれた。アートとテクノロジーは、これとは異なる、お互いを刺激し合う存在として、サンフランシスコ・シリコンバレーで新たな関係を作り出していくのではないか。

その中で、日本人のアーティストが活躍の場を作り出せたことは、非常に興味深く、また大きな期待を寄せることができる。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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