Facebook新社屋、「日本人画家」起用の理由 テック企業とアートの密接な関係とは?
Analog Research Labでの日々の業務とともに取り組むのが、社屋の壁に直接描くアートの制作だ。2015年12月から2016年2月までの3カ月を、ミキ氏はこれに費やした。Analog Research Labは、かつてサン・マイクロシステムズ本社だったフェイスブックキャンパスの中にある。だが、アート制作の場は、ちょうどその斜向かいの区画にある、「Hacker Way」と名付けられた道が通る新社屋の中だ。
リソースは自由。アーティストのメンタリティをいかに会社に取り入れるかがテーマであり、美術館のように、できあがった作品を買ってくるのではなく、その場所のために制作される作品でなければならない。
キュレーターのベネット氏は、ミキ氏の作品を、人通りがなるべく少なく、座って見られるようなところに描いてはどうか?とのアイディアを出した。派手な作品が多い中で、瞑想的な要素を作風としている彼女の作品は、内部と外部をつなぐ窓がある細長い場所がふさわしいと決まった。
いよいよ準備となったが、これには3週間がかかったという。
「場所選びとともに、どんな背景の色にするかを考えなければなりませんでした。その場所の周りには、すでにピンクやうす緑の壁があります。これとの組み合わせが悪いと、毎日そこで過ごす人にとってストレスになってしまいます。
社員が目の当たりにする、アーティストの苦悩
自分では、紺色にしようと決めていましたが、念のため、その場所を通りかかる社員に、好みの色を聞いてみました。しかしみんな全然違う色を選んでしまうので……。結果的には中間を取り、グレーに近いネイビーにしました。壁の上には蛍光灯が配置されており、ぼんやりと照らされてより幻想的な光景がイメージできました」
背景が決まったら、今度は実際に作品の制作だ。しかし、次なる困難に直面する。選んだ場所は人がすれちがえる程度の廊下であるため、距離が足りず、巨大な絵の位置決めによく用いられるプロジェクターが、投影できなかったのである。
そこで、一度紙に原寸大の作品を描き、壁に張り付けて、紙に穴を空けて下絵を壁に描くことに成功した。しかしミキ氏の苦悩はここでは終わらない。「どうしてその手法を選んだのだろう?」と後悔したという。全長6メートルの作品を、細いペン先で点描していく、途方もない時間が必要な手法を作品に用いようとしていたからだ。
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