Facebook新社屋、「日本人画家」起用の理由 テック企業とアートの密接な関係とは?

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こうしたアーティストの苦悩と試行錯誤こそが、Artist in Residence Programの狙いだ。日常の職場で、アーティストが何かしている。一昨日彼女は、頭を抱えていた。昨日はなにかに黙々と取り組んでいた。今日になって、笑顔を取り戻していた。そんなプロセスやアイデアの変化を、働く社員が目の当たりにすること、そして作品が完成していく様子を間近で見ていくことが重要だった。

フェイスブックは、サンフランシスコやシリコンバレーを含むベイエリアの気鋭のアーティストの才能を支援し、その活動を同社の社員のクリエーティビティや愛すべき職場作りに生かす。そんなアートにまつわるいい循環を、作り出し続ける仕組みを、社内に作り出していたのだ。

ミキマサコ氏は大阪生まれ。サンフランシスコ市内にあるCULT| Aimee Friberg Exhibitions専属のアーティストとして活動しながら、カリフォルニア大学の本校であるUCバークレーでも教鞭を執る。2016年8月には、サンフランシスコ市内、ゴールデンゲートパーク内にあるデ・ヤング美術館でのアーティストレジデンスを控えており、サンフランシスコのアートシーンで注目される人物だ。

西海岸の音楽に憧れを持ち、18歳のときに大学に合格してカリフォルニアに渡った。大学ではコミュニケーションの勉強をしていたが、アートのクラスを取った事をきっかけに、専攻を変えた。絵が好きだったという彼女は、高校は美術推薦で入るほどの腕前だった。

「英語が苦手で友達ができなかった私は、アートにとても助けられました。スケッチや作品を通じて、友達ができ話せるようになってきたし、一緒に絵を描くのもの楽しかったのです。こちらに来ると、孤独の本当の意味がわかるし、人は誰かとのインタラクションがないと生活できないことを思い知りました」

動物たちはカルチャーアイデンティティを象徴

フェイスブック社内の壁に、ミキマサコ氏が直接描いた

ミキ氏がフェイスブック社内の壁に描いたクジラとオオカミ。動物たちは、彼女のテーマである、カルチャーアイデンティティを象徴するキャラクターだ。たとえば、絶対に足場を踏み外せない脆弱な草食動物を描く。時には、捕食する側のオオカミやシロクマを描き、変化を敏感に感じ取るサバイバル力を表現する。

そうしたモチーフを通じて、彼女は、自分の置かれた状況や、日本人のままでいたいがいられないといった心境など、米国生活になぞらえて表現してきた。ミキ氏いわく「まるでフィクションを書いているような感覚」だと言い、観る人とのつながりを作り出せると、考えるようになったという。

アートという非言語を生きる糧として深めてきたミキ氏が、フェイスブック Artist in Residenceのシーズン4、多様性というテーマ性の中で選ばれたのは、必然だったのかもしれない。フェイスブックが現在取り組んでいる、言語の壁、インターネットの有無を乗り越えて、世界中のすべての人々をつなごうとしている活動と、彼女の作品が目指す「多様性を乗り越えたコミュニケーション」には、共通点が見いだせるからだ。

ミキ氏は、自身が暮らすサンフランシスコ・ベイエリアのアートシーンは「面白い転機を迎えている」と指摘する。

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