「将来が不安」な人こそ仕事がデキる 「一歩上がると、見えへんことがわかるようになるんどす」

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仕事経験を重ねていくと、自然に能力を獲得することができていきます。部下がいないからといって、自分の立場が変わらないというわけではないのです。獲得した能力に応じた見方を身に付けることが、重要です。

 「一歩上がると、見えへんことがわかるようになるんどす」

ある舞妓さんが、こうつぶやいたのを聞いたことがあります。この言葉は、能力が伸びたときに、目線を上げて考え、行動することの大切さを教えてくれます。

日本全国から中学卒業後に京都花街にやってきた10代半ばの少女たちは、1年程度の修業期間を経て、舞妓さんとしてデビューします。お座敷で日本舞踊を披露したり、初めて会うお客さまとも会話が途切れないように気を使いながらおもてなしをしたり、という必死の日々をスタートさせてから数年が経ち、舞妓さんチームのリーダー的役割も担うようになった頃に、聞かせてもらった言葉です。

新人時代に見えなかったことが見えるようになることを自覚し、それを活かして後輩にもわかるように教えること。芸妓さんたちが仕事を通じて、未熟な新人の自分を指導してくれたことに感謝したうえで行動し、さらに能力を磨くこと。お客さまが舞妓さんに何を期待しているのか読み取る努力を惜しまないこと……短い言葉の中に、ポジションが上がったことを自覚すれば、やるべきたくさんのことが見えてくるという意図が込められています。

働き始めた頃、仕事を通じて自分を高め、組織の役に立ち、社会に貢献したいと思っていたはずです。組織内でできないことを数え上げて、責任を回避し、評論家になることが、あなたの目標でしょうか? 

そうではないですよね。長い職業生活の中、どのような状況下でも、自分のベストを尽くせる方法を考え出せる人になりたいと思っているから、今の状況が気になり、Aさんの悩みが生まれたのです。

好評既刊『舞妓の言葉』では、舞妓さんのキャリアを支える数々の言葉を紹介している。

「一歩上がると……」と自ら言葉にできた舞妓さんと同様に、働き始めて数年のこの時期だからこそ、自分の目線を上げる練習をしましょう。外部環境の変化を今の立場のあなたが変えることはできませんが、自分の姿勢を変えることはできますよ。舞妓さんの智恵に学びながら、くよくよ過ごすのではなく、希望を持って今生きていることを大切に過ごしましょう。

次回も、若いビジネスパーソンの悩みを取り上げて、若い人の可能性を広げていく舞妓さんの言葉を紹介しながら、考えていきます。

西尾 久美子 京都女子大学現代社会学部准教授

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にしお くみこ / Kumiko Nishio


京都女子大学現代社会学部准教授
京都市下京区で数代続いた米穀商の家に生まれる。京都府立大学女子短期大学部卒業後、大阪ガス株式会社勤務、滋賀大学経済学部を経て、2006年3月神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期修了、博士(経営学)。神戸大学大学院経営学研究科助手、神戸大学大学院経営学研究科COE研究員を経て、2008年 4月より現職。専門は経営組織論、キャリア論。
著書に『京都花街の経営学』(東洋経済新報社、2007年)、『舞妓の言葉』(東洋経済新報社、2012年)などがある。

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