「歯周病」と「認知症」の切っても切れない関係 歯ぐきの炎症や失った歯の放置は禁物だ
また「歯周病が認知症の原因の多くを占めるアルツハイマー型認知症(AD)を悪化させる」という動物実験の結果もあります。人工的にADにかからせたマウスを2グループに分けて、一方だけを歯周病菌に感染させました。4カ月後にマウスの脳を調べると、いずれのグループでも記憶力に関係する脳の「海馬」という部分にADの原因となるタンパク質(アミロイドベータ、Aβ)が増えていたのですが、歯周病のマウスのほうが面積で約2.5倍、量で約1.5倍多くなっていました。
研究のリーダーである名古屋市立大・道川誠教授によると、これまで歯周病とADの関係は科学的に研究されておらず「歯周病治療で、認知症の進行を遅らせられる可能性が出てきた」そうです。別の実験では、マウスに歯周病の原因菌としていちばん有力なジンジバリス菌(P.g菌)がもつ毒素(LPS)を注入するとAβがたまりやすくなるとの結果もあります。
ヒトでの調査でも見逃せない結果が出ています。ADで亡くなった人の脳を調べると、P.g菌がもつ毒素(LPS)が高頻度で検出されます。それに対しADでないヒトの脳からはまったく検出されませんでした。またADが発病すると、発病前よりもP.g菌とその仲間の血液検査での陽性反応が強くなるという報告もあります。
40歳代以前からのアプローチが望ましい
「では定年が近づくころから注意すればいいのか」と働き盛り世代のあなたは考えるかもしれません。ところがここに重大な落とし穴があります。ADの発症する年齢で一番多いのは確かに70歳代ですが、ADの原因物質であるAβの蓄積は、発症の10~15年以上前から始まっているのです。ADの発症やその前段階である軽度認知症(MCI)の症状が出てからでは、対策は後手に回らざるをえないのです。認知症の発症から遠ざかるためには遅くとも50歳代で歯周病のコントロールが必要で、できれば重症化する人が多くなる40歳代以前からのアプローチが望ましいのです。
歯周病は、重症化しないかぎり強い症状はありません。自覚症状が少なく、中等度までは自分でみつけるのが難しい病気です。歯周病の原因は細菌感染ですが、その原因菌はクチの中だけでなく全身に拡散して悪さをしています。たとえばADのヒトの脳から高頻度で検出されたり、大腸がんの病巣から発見されたりしています。
そして厚労省の調査では、50歳代後半から60歳代前半にかけて歯周病を持つ人の割合は8割を超えていますし、若い世代でも歯周病になっている人は少なくありません。日本人の多くに歯周病による「小さな炎症」が相当な長期間続いている可能性があり、それが認知症を悪化させているおそれがあることになります。
また、歯周病や虫歯が進行した結果として「歯を失う」という状況が生まれます。ひと言でいえば「かめない」ということですが、実はこれも認知症の進行と深い関係があるのです。
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