発達障害の子のために「親ができること」 「その子らしく生き抜く」を第一に

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発達障害のある子を育てる親たちにとって最大のテーマは、将来の自立だ。

千葉県の片山裕子さん(43)が目下取り組むのは、中学2年生の和くんの「自立大作戦」だ。

片山裕子さん、和くん 最近は友だちから和くんに電話がかかってきて、こそこそ会話していることも。「学校の友だちができたことが何よりうれしい」と裕子さん(写真:堀内慶太郎)

和くんは軽度の知的障害があるが暗記力があり、「指導の工夫をして障害を目立たなくしました」(裕子さん)。計算がずば抜けて速く、そろばんは習い始めてすぐ有段者になった。百人一首も幼少時に覚え、競技かるた大会を総なめにする。

けれども障害のため、人とのかかわりが苦手で、興味の範囲が狭く、不器用。感覚の過敏さもある。そんな側面をカバーするため、小学生までは裕子さんが何事にも先回りしてきた。

幼少期は、シャツの襟首のボタンを嫌がって着ない和くんが幼稚園に通えるようにと、入園前に制服を入手。緩めて下の方につけたボタンで留める練習をし、それを毎日1ミリずつ上にあげていき、3カ月かけて着られるようにした。

和くんは集団行動や状況の変化に対応するのが苦手。運動会、クリスマス会、遠足といった行事ごとは、全て家で予行演習して臨ませた。運動会で踊るダンスは、音楽テープをダビングして、家でも練習した。

失敗は「あえてさせる」

小学校に入り、給食当番も清掃活動も参加しなかった和くん。裕子さんは「いじめにつながるのでは……」とヒヤヒヤした。かっぽう着を買い、家で汁物だけはよそえるよう特訓をした。

中1の時、裕子さんは発達障害に詳しい大学教授に相談に行った。国語の文章読解でつまずく和くんの勉強法を聞くつもりだったが、教授にこう問われた。

「お母さんは何を望んでいるんですか? 和くんを親の思い通りにしようと思っていませんか? 僕は和くんの将来を思えば、まず『自分が』やりたいことを見つけてほしい。『自分で』洗濯やごはんの用意、掃除ができるようになってほしいと思う」

裕子さんはこの時はたと気づいた。いまこの子に必要なのは点数じゃなく自立だ、と。

「自立大作戦」には夫の功士さん(48)も全面協力している。週末はシェフとして家族のごはんづくりをする功士さんは、和くんに献立を決めるところから任せている。自分が食べたいものの材料をリストアップさせ、それらを買えるだけのお金を渡す。親はスーパーにはついていかない。ジャガイモ1個を買うのに、使い切れないほどの大袋入りを買ってくることもあるが、失敗は「あえてさせる」。

取材で和くんの買い物に同行した。袋に入りきらないネギを手にした和くんは、購入する際、店員に交渉して半分に切ってもらっていた。その様子を伝えると、「へー、和がそんなことも。やらせてみるものですね」と裕子さんは目を細めた。

発達障害の子と社会との段差を埋めるべく、親は幼少時から試行錯誤する。だがもっと難しいのは、親がその「ガード」を外すことなのかもしれない。

※この記事はAERA5月23日号から5回にわたり連載している集中連載「発達障害と生きる」の第4回です

AERA 2016年6月6日号

(ライター・古川雅子)

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