発達障害の子のために「親ができること」 「その子らしく生き抜く」を第一に

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「リュウが家から一歩も出られなかった時期、私自身も外出がままならず、不自由と感じたことは一度や二度ではありません。でも今は、この子のおかげで思ってもみなかったライフワークが見つかったと感じています」

障害児の子育ては、母親が中心になりがちだ。一人にかかる負担も大きい。ならば母親と子どもたちのために、父親にできることは? そんな模索を続けてきた団体がある。2012年、埼玉県でシステム会社を経営する金子訓隆(のりたか)さん(48)ら、発達障害の子がいる父親10人が立ち上げたNPO法人「おやじりんく」(さいたま市)だ。父親たちが活発に交流する機会をつくり、父親の視点を生かしながら子育てや子どもの将来の自立・就労支援を考えていく。

オヤジがブログで交流

訓隆さんには、知的な遅れを伴う「自閉症スペクトラム」と診断された長男がいる。現在小5の真輝(まさき)くん(10)だ。診断を受けたのは、2歳10カ月のとき。訓隆さんはすでにその時、心の準備ができていたという。妻からの「SOS」を拾い上げ、ネットを介して情報を調べ上げていたからだ。

「公園で木漏れ日のキラキラを1時間ぐらい見上げている」

「ミニカーを一列に並べ続ける」

妻から聞くこんな我が子の特徴は、自閉症の子を持つ母親たちが綴るブログの内容と合致していた。訓隆さんはブログの母親たちと連絡を取り合い、入手した情報をもとに自治体の福祉課や子育て支援センター、児童精神科医がいる療育施設など、手がかりがつかめそうな場所に足を運んだ。そうした場で出会った医師が、真輝くんを1年以上経過観察し、比較的早期の診断につながった。

「早くから就学に向けて計画したり準備できたりしたのは、出会いや情報があったおかげ」

と言う訓隆さんは、今度は自分が発信する側にまわろうと決めた。かつて大手企業でITコンサルタントを務めていた経験もあり、情報発信はお手のものだった。真輝くんが3歳の時から、子育てブログ「マサキング子育て奮闘記」を始めた。

求められるのは、オープンで信憑性のある情報だと考え、息子を実名かつ写真入りで紹介した。父親としての思いを等身大に綴ったブログは、一日4000アクセスを超えた。

「オヤジの僕がブログを書き始めたら、全国のオヤジたちからアプローチされるようになった」

ブログを通じて、訓隆さんは発達障害児の親たち千人と交流を重ねた。ビジネスパーソン、社会的ネットワークを持つ人など、人材の宝庫だった。これらオヤジたちのパワーを結集して、発達障害児の支援や雇用創出に生かせたら。そんな思いが「おやじりんく」につながった。

子どもたちは地域の中で生きていってほしい。そんな願いから、この団体で児童デイサービスも開設した。それまでの仕事を退職してデイサービスの施設長を引き受けたメンバーもいる。

「発達障害児に日々向き合う母親たちを休ませるために、父親が仕事を休んで子育てをバトンタッチするのもいい。障害を理解し、広くリサーチして社会的課題を洗い出すことも重要。地域に出かけていって周囲の理解を求めるという役割もある。考えてみれば、父親だからこそできることは、いくらでもあると気がつきました」(訓隆さん)

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