自殺したい中学生を救った大人たちの「言葉」 「若者の死因1位が自死」という日本の現実

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加えて、阪中さんとともに彼女を支えていたA先生がクラスメートに伝えてくれた言葉に感謝していた。

「何気ない一言で傷つく子がいるんだよ」
「差別(いじめ)をする者は水に流すが、された者は石に刻む」

A先生は授業中、誰に向けてとかではなく、あくまでさりげなく何かの話に関連付けて言ったそうだ。けれども、女性は「自分のために言ってくれたんだ」と嬉しかった。

危機に陥ったとき、いのちを救う力とは

2年生の修学旅行は参加したものの、出発の朝まで迷っていた。

「もうだいぶ前の話だけど憶えていたら教えて」。阪中さんが行きたくなかった理由を尋ねると、女性は迷うことなく口を開いた。

「みんなの顔を見たら1年生のころ(嫌な思いをしたとき)のことを思い出しそうで……。自分は話す友達がいないのではないかと不安だった」

何度も誘われたため断れずに参加したが、すぐにクラス写真の撮影があり、それがつらかったという。

「もし、写真撮るの大丈夫?と尋ねてくれたら……。たぶん嫌とは言えなかったと思うけれど(気持ちが)違ったと思う」と率直に話してくれた。

「中学生のころは、どうやって死のうかと、そればかり考えていた。でも、今はどうやって生きていったらいいのかと思ってます」

阪中さんは感慨深げに話す。

「本当に成長してくれたと嬉しく感じました。でも、修学旅行で最初の写真撮影がそんなにしんどかったなんて想像もしていなかった。子どもたちの悩みや不安を受け取る感性を高めること、物事を進める際は生徒に自己決定の機会を設けることの重要性をあらためて思い知りました」

阪中さんは、普段の生活の中で「私ってやるやん!」というような些細で小さなことにも喜びを見つけることのできる人になりたいと言う。それは子どもたちも同じに違いない。

「私たち大人が、まずは小さなことにも喜びを見つけられ、自他を大切にできる人間になることが大事だと思います。そういう大人として、子どもたちにとって “なりたい大人”の1つのモデルとなれたらと思っています。そのような努力が、危機に陥ったときにいのちを救う力にきっとつながるのではないでしょうか」

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