自殺したい中学生を救った大人たちの「言葉」 「若者の死因1位が自死」という日本の現実

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「子どもの命を守るために大人ができることは、子どもの心の危機に気づくこと。子どもから『相談するに値する』『信頼できる』と思われる大人になること。この2つを意識してほしい。そのためには、子どもの気持ちや感情を、子どもの視点から理解しようと努め、言葉にならない心の声にも耳を傾けようとすることが大切です」

そう話すのは、中学校教員として教壇に立ち、現在は大阪府内で小・中学校のスクールカウンセラーを務める阪中順子さんだ。日本自殺予防学会理事でもある自殺予防の専門家が、自身の出会ったある女子中学生の話をしてくれた。

その女子生徒は脱髪、つまり髪が抜けてしまう悩みがあった。中学入学後は運動系の部活に入るなどして毎日楽しく学校に通っていたが、2年生の6月から休みがちになる。友達に気づかれるくらい脱髪が進んでいたからだ。夏休みを経て2学期になると不登校に。昼夜逆転の生活になった。

しばらくすると、家出をしたり、線路に飛び込もうとしたり、鴨居にひもを掛ける行動に出た。その都度必死に止めていた母親から「このことは誰にも言わないで」と言われ、阪中さんは母親の意思を汲みつつも「学校として援助体制を取るべきではと悩んだ」という。

「そのなかで何とか彼女と対峙できたのは、同僚のA先生のおかげです。保護者もその先生を信頼していたので、私自身も支えられながらその親子に向き合うことができた」と振り返る。

阪中さんは、母親の話を真剣に聴きながら、女子生徒本人が興味を持ちそうな教材を探しては家庭訪問を続けた。友人とのかかわりを持てるよう、学校の様子を伝えた。学級通信には、本人の書いたものや、クラスメートが本人について触れたことを許可を得て掲載した。皮膚科や児童相談所へ行くことも勧めたが、本人が断り続けたので無理強いはしなかった。

家に居場所があったから

不登校は続いたものの、高校へ進学。その後も紆余曲折はあったが、現在は仕事を持ち社会人としてがんばっている。自著『学校現場から発信する 子どもの自殺予防ブック いのちの危機と向き合って』(金剛出版)でともに過ごした日々に触れるため、阪中さんは大人になった女性に最近再会した。その「元女子生徒」の話が、とても興味深い。

女性は中学生の最初のころは家族に「学校へ行け」と言われるから我慢して登校していたが、おなかが痛くなったり体に異変が表れた。「死ぬくらいやったら学校行かんでもいい」と父親が言ってくれて楽になったそうだ。

「家に居場所があったから、今、生きてます」と彼女は穏やかな表情で話したという。

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