奏者とホール、ワインとグラスの共通項は?

ホール選びは大都市ならではの楽しみだ

そこに、以前から存在する東京文化会館(1961年/大ホール2303席/小ホール649席)やNHKホール(1973年/3746席)、オペラ専用の新国立劇場(1997年/1804席)などが加わって、東京のクラシック界を賑わせている。“ホールは第2の楽器”と言われるように、それぞれのホールは独自の響きや特徴を持っている。さらには、客席数の違いもコンサートに大きな影響を及ぼしている。

もちろん、オーケストラ公演のように大型のホールでなければ出来ない演目は別だが、器楽・室内楽やピアノリサイタルなどの場合は、大・中・小、どのホールでもコンサートが行える。そこでポイントとなるのが、同じ演奏家を異なるホールで聴いた時に聴こえてくる音の違いだ。これは演奏のうまい下手を聴き分けるよりもずっと違いがわかりやすい。

その違いを説明するために引き合いに出して考えたいのが、ワインとワイングラスの関係だ。同じワインを異なるワイングラスで飲み比べてみると味が違うことをご存じだろうか。それを実際に体験させてくれるのが、オーストリアのワイングラス・ブランド「リーデル」が行っている「ワイングラス・テイスティング」だ。4種類のワインを形の異なる5つのワイングラスで飲み比べてみると、明らかに味の違いが感じられる。

良いワインを適正なグラスで飲むように

ではなぜ味が違って感じられるのだろう。人間の体の中で最も敏感な部分は指先と唇だと言われている。その意味では、敏感な指先でグラスのネックをつまみ、繊細な唇にワイングラスを触れさせるだけでも個々の印象が大きく変わりそうだ。グラスの形状によって香りの立ち方に違いが出るのも当然だが、味の違いを感じさせる最も大きな要因は、ワインを直接受け止める人間の舌にあるのだと言う。人間の舌は場所によって味覚が異なるため、ブドウの品種によってワインを舌のどの部分に落とすのがベストなのかが違ってくる。そのために“ブドウ品種ごとにワイングラスの形状を変える”というのが「リーデル」の考え方だ。

たとえばシャンパングラスが細長い形をしているのは、舌の奥の方にある酸味や苦みを感じる部分に直接落とすためだと聞くと理解しやすい。グラスの形状の違いは、ワインを舌のどこに落とすのかが計算された結果だったのだ。興味のある方は是非体験してみて欲しい。これまで飲んできたあの素敵なワインの数々を、適正なグラスで飲んでいればもっとずっと美味しかっただろうに……と悔しくなること間違いなし。というわけで、これは、なにやらクラシックの演奏家とホールの関係にも似ているように思えてくる。良いワインを適正なワイングラスで飲むことは、良い演奏を適正なホールで聴くことと同じように大切なことだ。

次ページ飲めば飲むほど、聴けば聴くほど…
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