クラシックの世界には「ワイングラス・テイスティング」のような気の利いたセミナーは存在しないので、ただひたすらコンサートに通って聴き比べるしかない。ワインも飲めば飲むだけ味のバリエーションや自分の好みが解ってくるように、クラシックの場合も聴けば聴くほど自分が何を求めているのかが見えてくる。
今をときめく人気指揮者の山田和樹氏にインタビューをした際「コンサートに10回行けば1回は当たりがあるはず。そこできっと好みのステージに出会えるでしょう」と彼が語っていたことを思い出す。まさにその通り。音楽自体はもちろん、自分好みのホールに出会うことは、素敵なワインとワイングラスに出会うことにも似ているような。
目的に合ったホールや席を選ぶ
さらには、自分が何を求めてコンサートに行くのかによっても、選ぶべきホールや座るべき席は変わってくる。オーケストラの豊潤な響きに身を浸したいのならば、響きのよい大ホールのやや後方の席がお薦めだ。ここに座れば天井から降り注ぐミックスされた美しいハーモニーを全身で受け止めることが出来るだろう。
指揮者の指揮姿を間近で観たいと思えば、サントリーホールの「Pブロック」などのように、指揮者の向かいにある席に座ってみるのも一興だ。さながら自分がオーケストラの団員になったような気分が味わえるのもこの席だ。ピアノリサイタルの場合には、ピアニストの手が見えるステージに向かって左側前方の席から売れて行くのが定番だ。歌手の場合には、声の指向性を考えて、歌手の正面のなるべく前方に座るのがベストだろう。
さて、そこでホールの客席数の問題だ。選択に迷ったならば、まずはその演奏者や演奏団体の規模に見合った客席数のホールで聴くことをお薦めしたい。同じピアニストや弦楽四重奏を2000席のホールで聴くのと1000席のホールで聴くのでは、まったく印象が違ってくる。ましてや300席のホールではさらに違う響きが聴こえてくるのは当然だろう。細かいニュアンスや演奏家の息遣いまでが感じられる空間で楽しむ音楽体験は格別だ。しかし人の心理はさまざまで、多くの人々と共に素晴らしい演奏や感動を共有したいという想いがあることも理解できる。
ホール選びは、東京のように多くのホールが存在する大都市ならではのぜいたくな楽しみだ。一方、お気に入りのワイングラスひとつを使ってすべてのワインを味わうように、お気に入りのホールでさまざまなコンサートを楽しむというスタイルも捨てがたい。「このホールは私のリスニングルームなのよ」と楽しげに語る友人の姿を思い出すが、それはそれで実に素敵なクラシックライフと言えそうだ。レッツ・エンジョイ・クラシック!
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