なぜ欧州の観光客は日本よりタイを選ぶのか アトキンソン氏「距離より深刻な問題がある」
ただ、これを悲観的に受け取って欲しくないのです。拙著『新・観光立国論』でも繰り返し述べさせていただきましたが、「観光客が来ていない」ということは、裏を返せばそれだけ大きな「伸びしろ」があるということです。2020年にむけて4000万人の訪日外国人観光客を獲得しようとしていくなかで、欧州市場には大きなチャンスがあると考えるべきなのです。
欧州の「チャンス」を分析する
では、このチャンスについてもっと細かく見ていきましょう。
国別に見ていくと、各国の人口と訪日観光客数の比率には大きなばらつきがあります。英国、スウェーデン、スイスなどは人口の0.4%以上が訪日していますが、欧州先進国最大の人口を誇るドイツからはわずか0.2%です。ドイツ人だけが日本の観光資源に魅力を感じないという事実はないと思います。実際、アジアにはよく訪れており、2014年にタイを訪れたドイツ人観光客は年間約72万人もいるのです(日本へは16万2580人)。
これは、日本が対ドイツ戦略を強化すべき時期を迎えているということを意味します。ドイツ語対応を積極的に行い、ドイツからの観光客を迎え入れる意味は大きいと思います。
欧州全体の人口に占める訪日観光客の比率は0.21%。1人当たりGDPが低く、人口が非常に多いロシアとポーランドを除けば0.31%とやや上がりますが、欧州全体の人口に占める欧州からの訪日潜在市場である1億1500万人の比率は約2%。つまり、本来は欧州の人口の2%程度が日本を訪れるポテンシャルがあるのです。そのような意味では、日本が観光立国を目指していくうえで、欧州にはまだまだ多くの「宝の山」が眠っていると考えるべきではないでしょうか。
現在の訪日外国人観光客数は、全世界の国際観光客数の1.7%に過ぎません。これは、訪日潜在市場の5.1%にあたります。2020年の目標である訪日外国人観光客4000万人を達成するためには、今の世界の国際観光客の3.5%、訪日潜在市場の10.3%に来てもらう必要があります。つまり、日本が目標を達成するには、市場規模が成長しないなら、今の2倍にシェアを拡大していかなければいけないのです。
そのためには従来のやり方だけでは不十分だということは、容易に想像できるでしょう。桜、すし、富士山、芸者、という古くからの「ジャパン」のイメージだけではなく、スキージャパン、ビーチジャパン、ウォークジャパン、食べるジャパンなど、これまでにはない多様性に富んだ観光資源を広くPRしていく必要があります。
そしてドイツのように、本来であればもっと日本に来ていてもおかしくない国をあぶりだし、自治体と民間がうまく連携しながら、観光PRやマーケティングを行う。
そのためには、これまでのように「桜、富士山、芸者」という紋切り型の情報発信ではなく、各国の文化や観光客の嗜好に合わせ、カスタマイズした施策が必要です。
そのような賢く、きめ細かいマーケティングを実施していけば、日本のポテンシャルを考えると、4000万人は2020年以前に軽々と実現できるはずです。
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