幸福度をはかる経済学  ブル-ノ・S・フライ著/白石小百合訳 

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結果だけでなく、プロセスも効用を左右することがわかってきた。同じ所得を稼ぐにしても、自営業のほうが高い幸福につながる。雇われるケースに比べて、自らが主体的に意思決定できることがその理由である。起業を促す政策には、経済成長を高める以上の意味がある。

民主主義も幸福度に大きく影響する。本人にとり不利な決定が行われるとしても、意思決定に自らが参加し、納得すれば効用は低下しない。地方分権の推進は、受益と負担を明確化し、公的部門を効率化させるだけでなく、自らが決定に参加することで、国民の幸福度を高める。

ごみ処理場等の立地を考える際にも、幸福の経済学の視点は役立つ。経済学の伝統的回答は、恩恵を受ける人に課税し、負担を被る人に配分する金銭的補償策である。ただ、金銭での解決に後ろめたさを感じ、拒否反応を示す人も少なくないため、現物給付が有効となる。使用済み核燃料の中間貯蔵地などの原発問題を考える際、健康への不安などに対し、地域医療の充実が有効な問題解決策となりうる。

日本では、労働力減少への対応策として、女性の就業率を引き上げるべく、さまざまな子育て支援策が検討されている。男性の働き方を同時に変えなければ目的達成は困難だが、経済成長の視点だけではなく、幸福度を高めるためのワークライフバランスの確立といった視点が不可欠だと思われる。

Bruno S.Frey
スイスのチューリヒ大学実証経済研究所教授。学術誌『Kyklos』の編集長。1941年スイスのバーゼル生まれ。経済学博士(バーゼル大学)。専門は政治経済学で、環境、美術、心理、テロなどの経済分析を幅広く手掛ける。共著書に『幸福の政治経済学』。

NTT出版 3570円 290ページ

  

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