世界を救う処方箋(しょほうせん) 「共感の経済学」が未来を創る ジェフリー・サックス著/野中邦子、高橋早苗訳 ~「臨床経済学」によって米国復興の道を説く
最近、リベラルな経済議論を展開する学者はほとんどいなくなった。その中で数少ないリベラル派の学者3人が、相次いで興味深い本を出版した。その3人とは、ジョセフ・スティグリッツ教授、ポール・クルーグマン教授、そしてジェフリー・サックス教授である。
その3冊は、貧富の格差拡大を取り上げたスティグリッツ教授の『The Price of Inequal−ity』、ケインズ的な財政拡張政策の必要性を説くクルーグマン教授の『End This Depression Now』、市場主義経済の限界を主張するサックス教授の本書である。3冊に共通しているのは、伝統的なリベラリズムの議論に基づいて主張が展開されていることだ。また、いずれもオバマ政権の政策を批判しているのも興味深い。
著者のサックス教授は29歳でハーバード大学教授に就任するなど、若い時から嘱望された学者である。同教授は単なる学者に留まらず、南米諸国の経済問題や東欧・ロシアの市場経済への移行に関連して政府顧問としても活躍している。最近では途上国問題や環境問題、地球温暖化問題などに取り組み、国連のミレニアム計画の実現では指導的な役割を果たしている。そうした活動の成果が、旧著の『貧困の終焉』や『地球全体を幸福にする経済』に記されている。本書は視点を米国に移し、米国経済の復興の道を説いたものである。