世界を救う処方箋(しょほうせん) 「共感の経済学」が未来を創る ジェフリー・サックス著/野中邦子、高橋早苗訳 ~「臨床経済学」によって米国復興の道を説く
同教授の特徴は、理論と実践を結びつけたところにある。「マクロ経済学者の仕事は、重篤な症状を呈する患者や未知の基礎疾患に対処しなければならない臨床医に似ている」と、自らの学問的アプローチを「臨床経済学」と名付けている。
学生の頃、米MIT(マサチューセッツ工科大学)のポール・サムエルソン教授の薫陶を受けたこともあり、最近はやりの市場主義を批判して、政府と市場の調和を求める「混合経済」の重要性を説いている。また、米国の病理は、政府と企業・メディアの癒着、不平等の拡大、企業権力の増大などにあると分析する。その分析は極めてオーソドックスかつ冷静である。特に第三章の「自由市場についての誤った考え方」は知的に刺激的である。
ただ本書原題は『The Price of Civilization』である。分析対象はあくまで米国であり、邦題は“看板に偽りあり”である。また、それによって原題の格調を台無しにしているのもいただけない。興味深い指摘がされている「ボドリー・ヘッド版」に書かれている「前書き」が訳されていないのも残念である。極めて平易な英語で書かれており、できれば原著で読まれることをお勧めする。
Jeffrey D.Sachs
米コロンビア大学地球研究所所長。国連事務総長特別顧問。米ハーバード大学で博士号取得。29歳で教授に就任し、20年間ハーバードに所属、同大学国際開発センター所長を務めた。南米や東欧の政府、世界銀行など国際機関のアドバイザーを歴任。
早川書房 2415円 353ページ
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