アマゾンは、当初、日本の大手出版社と交渉すれば、タイトル数は集まると考えていたようだ。アマゾンの契約書は、電子書籍の「送信可能化権」を「出版社がアマゾンに許諾する」という内容になっていたからだ。
しかし、日本の著作権法では、この送信可能化権を出版社は持っていないのである。
アメリカの場合、出版社は紙も電子も含めて、著者とは包括的な契約(エージェント契約)をしているので、アマゾンは出版社とだけ契約すればよかった。ところが、日本の出版社は著作者から権利使用の「許諾」を受けているに過ぎず、著作者の了解を得ずに配信業者であるアマゾンに電子書籍のデータを渡せない。
さらに、電子書籍は定価販売が義務付けられた再販価格維持商品ではない。よって、卸売側の出版社が価格を決めると独禁法違反になるので、アマゾンは、英米流(欧米流ではない)の小売り側が価格を設定できるホールセールモデルを日本でも導入できると考えていた。
だが、日本の有力出版社は、この点だけは譲らなかった。価格決定権を失えば、電子出版市場の拡大とともに、紙での収益が決定的に激減するからだ。楽天はこの点を理解し、出版社側に価格決定権があるエージェンシーモデルで契約した。その結果、アマゾンもエージェンシーモデルでの契約に追随せざるをえなくなったのだ。
キンドルでも電子書籍は安くならない
こうして、一部のコンテンツをのぞいて小売価格をアマゾンが決めることができなくなった。アメリカでキンドルが売れたのは、なによりも電子版が紙版(ハードカバー)より圧倒的に安かったからだ。25ドル以上するハードカバーが9.99ドルまでに値下げされた。これが、日本では起こらないことになった。
ちなみに、オープンしたばかりのキンドルストアで、私の本『資産フライト』(文春新書)キンドル版を見てみたが、版元(文藝春秋)の値段設定どおりの630円になっていた。一方、紙の方は788円。電子版がやや安いといった程度で、アメリカのように半額以下などということは起こっていない。
こうした本にはご丁寧にも、「出版社により設定された価格です」の一言が付されている。この一言が付されているのは、講談社、集英社、小学館、文藝春秋などであり、これらの社はエージェンシーモデルでアマゾンと契約したと推察できる。
一方、角川、PHP研究所、新潮社、ダイヤモンド社などの書籍にはこの一言がないので、ホールセールモデルでの契約を飲んだと推察できる。
とすると、ホールセールモデル契約の出版社の本はいくらでも安くできるではないか?と思われるかもしれないが、実際は、そうはならない。これらの社も同じように小売り希望価格を出しており、それを無視すれば、アマゾンは本を仕入れられなくなるからだ。
結局、現状では、キンドルストアの電子書籍の価格は、出版社側の希望で紙の本の7割までしか安くならず、ほかの電子書店とほぼ横並びだ。つまり、キンドルストアは、価格に関してはなんの目新しさもない。
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