キンドルが売れないこれだけの理由 日本は電子書籍の「墓場」だ

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アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは、キンドルの日本発売に際し、日本のメディアのインタビューに対して、ホールセールモデル(出版社から書籍を卸してもらってアマゾン側が小売店として価格を決める形式)とエージェンシーモデル(アマゾンが代理店役となって出版社が価格を決める形式)の 2種類の取引形態に対応したと明かしている。

つまり、当初、予定していたホールセールモデルによる大手出版社との契約はうまくいかず、2通りの契約形態になったということだ。しかも、エージェンシーモデルにおいても価格は自由にできない。

ベゾス氏は以前から一貫して「電子書籍はサービスである」と言ってきた。しかし日本では、アマゾンといえども満足なサービスができないままの始動となったのは明白だ。なぜなら、ベゾス氏が言うサービスとは、これまでのアマゾンの動きを見るかぎり、徹底した「価格破壊」だからだ。

これでは、キンドルがアメリカのように売れるとは言い難い。

マンガ抜きに、電子書籍は制覇できない

おそらく、ベゾス氏が期待しているのは、出版社提供の電子書籍の売り上げからマージンを得るビジネスではない。本命は、アメリカで成功した「キンドル・ダイレクト・パブリッシング」だろう。すでに、アメリカではここからミリオンセラーを出す作家が誕生している。

もし、キンドルが売れれば、出版社経由のコンテンツ販売よりも、アマゾンの電子出版ビジネスはこちらのほうが主力になるはずだ。

さらに、キンドルがそれほど売れない理由として、日本の電子書籍市場の特殊性が挙げられる。

インプレスR&Dによると、日本の電子書籍市場は、昨年時点で629億円。そのうちの約8割がエロ系漫画を中心とした漫画コンテンツだ。この市場は日本独特のガラケーによってできあがったものだが、キンドルは漫画を読む端末としては優れていない。

ベゾス氏は、キンドルのフォーマットが日本語の縦書きに対応したことをアピールしている。しかし、彼はまさか日本の電子出版市場の8割が漫画だということを、夢にも考えなかっただろう。また、紙の出版市場の3割以上が漫画だという点も理解していないだろう。

つまり、漫画を制しなければ、日本の出版市場は制覇できないのだ。現時点では、電子書籍の漫画を読むならスマホで十分こと足りる。

キンドルがそれほど売れないだろうと思う理由はまだある。それは、いまはガラケーからスマホへの転換期で、若いユーザーはスマホを購入するだけで手いっぱいだということだ。そんな若者たちが、電子書籍を読むだけのために、さらにもう1台のデジタル端末を買うだろうか? 

いまの若い世代は、クルマはもとより、テレビもPCも買わないという。たしかに「iPhone」は売れても「iPad」はそれほど売れていない。スマホでも電子書籍は購入できるし、テレビも見られるし、映画も見られる。若いユーザーにとっては、スマホ1台あれば、ほかのデジタル端末は必要ないのだ。

アマゾンは秘密主義に徹した会社だから、売れようと売れまいとキンドルの販売台数は発表しないだろう。アメリカでさえそうだから、日本となれば発表はまったくないと思っていい。しかしそれでも、キンドル日本上陸の結果は、年内にある程度わかる。日本もいよいよ電子書籍の時代になるのか。私の墓場説がまたもや的中するのか。その答えが出る日は近い。

山田 順 ジャーナリスト

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やまだ じゅん / Jun Yamada

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年『光文社ペーパーブックス』を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースも手掛ける。著書に『出版大崩壊』『資産フライト』『出版・新聞 絶望未来』『2015年 磯野家の崩壊』などがある。

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