現代日本の労働経済 分析・理論・政策 石水喜夫著 ~人口減少社会をケインズ理論で読み直す

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評者は著者が指摘する次のような、ここ20年ほどの日本の企業のビヘイビアのマイナス面については深く同感する。たとえば雇用者報酬の低下は企業収益の増大をもたらしたが、その利益は投資に振り向けられるのではなく、内部留保など、「企業の金融資産の積み増しに向かい」、企業をして社会の「最大の貯蓄セクターに変貌」せしめている。それは有効需要の削減をもたらし、「企業セクターの貯蓄過剰を政府部門の支出超過でおぎなうという歪な経済循環」を作り出す原因となっているのだ。

著者の主張は市場に任せる(夜警国家)のではなく、政策による国づくり(福祉国家)にある。著者はケインズによるILO(国際労働機関)の役割の評価などを事例に挙げつつ、商品ではない労働力の意味を語る。

「有効需要の減退から労働力需要が不足し、失業が発生する」としたケインズの考え方を援用しつつ、労働行政の社会的な意義や存在理由に言及する。評者は久しぶりに「集団的労使関係」や「労働組合活動」という言葉に出合った。ただ、労働経済学の復権や社会政策の意味を論じながら、かつて「主流」としてその理論的根拠をつくってきた、マルクス経済学の戦後の「パラダイム」に関して一言も触れていないのはなぜだろう。新古典派の猖獗(しょうけつ)はその反動でもあったと評者は思う。

いしみず・よしお
京都大学大学院経済学研究科教授。1965年生まれ。立教大学経済学部卒業。労働省入省。2005年より厚生労働省労働経済調査官として6冊の『労働経済白書』を執筆。11年から現職。著書に『現代雇用政策の論理』『市場中心主義への挑戦』など。

岩波書店 2940円 271ページ

  

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