評者 中沢孝夫 福井県立大学地域経済研究所所長
「論争と主張」の書である。
「論争」の対象は「主流派経済学」としての新古典派であり、「主張」はケインズ理論を人口減少社会の経済学として読み直すことにより、福祉と雇用を擁護するところにある。それは「投資の社会化」、そのための集団的労使関係の取り組みや社会的対話の勧めにつながっている。
著者によると、現代日本の経済学研究の枠組みは、新古典派経済学のパラダイムの中にあり、「研究活動に参加する個々の研究者の、生きて行くためのフィールドが形づく」られているという。フィールドとは(大学の)人事であり、予算であり、学会誌など発表の場である。またマスコミもそれを支援しているとのことである。
その主流派経済学が行ってきた主張(政策)のひとつが、労働市場の自由化である。それは長期雇用の見直しであり、業績・成果主義型賃金の導入である。失業も賃金の引き下げによって解消されると考えられ、また市場調整メカニズムを働かせるためには「正社員」の「既得権益」の否定が主張された。
といっても1995年以降、強力にすすめられたこれらの「政策」も、著者によれば、近年の調査では企業は人材育成の面からも長期安定雇用の再評価が進んでいるとのことである。