ブラジル、ルセフ大統領退陣ならどうなる? 下院で弾劾手続き可決、5月に上院で採決へ

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金融市場においては、左派政党であるPTのルセフ大統領と比較して、中道かつ包括政党であるブラジル民主運動党(PMDB)出身のテメル副大統領の経済政策はビジネスに優しいとの見方がある。

テメル氏が大統領に就任した場合には、同じく中道政党であるブラジル社会民主党(PSDB)が与党連立に加わるとみられており、両党は石油業界に対する外資誘致などの自由化政策を進めると予想されるほか、長年にわたって財政の重石となってきた年金改革などの構造改革を前進させるとの期待もある。

こうした見方は、ルセフ大統領の弾劾が現実味を増すとともに、国際金融市場におけるブラジルの評価を徐々に改善させる一因になっていると考えられる。

しかし、事態がそのように円滑に進展するかどうかは慎重にみる必要がある。ペトロブラスに関連する汚職問題を巡っては、検察当局による捜査(ラヴァ・ジャット作戦)が展開されているが、一連の捜査ではPMDBやPSDBの所属議員にも疑惑の目が向けられており、疑惑が明らかになればテメル副大統領が主導する政権もスキャンダルに見舞われることは避けられない。

さらに、弾劾手続きが進められる中でPMDBが与党連立を離脱したことは、弾劾手続きを事実上後押しした。このため、PT及びその支持者はPMDBの動きは「クーデター」だ、との批判を強めており、直近の世論調査ではテメル副大統領に対する不支持の動きが広がっているとされる。

政治的混乱が続く中でのオリンピック開催

したがって、仮にテメル氏が後任の大統領に就任した場合も、国民からの支持を追い風に同国経済が必要とする構造改革などにまい進できるという保証はあまりないと判断できる。最終的には、次期大統領を選出するための出直し選挙を通じて新たなトップが選ばれるまでは、政治を取り巻く環境が本当の意味で好転する可能性は低い。

今年の8~9月には、同国で南米初のオリンピック・パラリンピックが開催される予定だが、その頃になってもブラジル政治は混乱を抜け出せていないのではないか。

西濱 徹 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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にしはま・とおる

一橋大学経済学部卒、国際協力銀行(JBIC)で、ODA部門(現、国際協力機構(JICA))の予算折衝や資金管理、アジア向け円借款の案件形成・審査・監理やソブリンリスクの審査業務などを担当。2008年より 第一生命経済研究所、2015年4月より現職。担当は、アジアをはじめとする新興国のマクロ経済及び政治情勢分析

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