3000円のビールは、なぜ一晩で完売したのか 持たざる者の「逆を突く」戦略とは?
この頃、小売店にポスターを持って行く、テレビCMを打つなど、あせってやったことが、すべて外れた。しかも、皆が疑心暗鬼にとりつかれた。
「当時、主力製品の『よなよなエール』の味も、議論の対象になりました。『どうせ日本では、大手のビールに近い味でなければ売れないのでは?』と話し合われたのです」
1本3000円のビールが完売!
仮に、コーラを買いに行って、棚に2種類並んでいたとしよう。片方は有名メーカーの製品で、片方は缶のデザインこそ似ているが聞いたこともないメーカー。価格が同程度であれば、まさか後者を選ぶ人はいないだろう。ニセモノのように感じるからだ。
一方、後者の価格が高く、デザインもこだわりを感じさせるとしよう。ならば、一部のコーラ好きは「試してみようか?」と考えるのではないか。そして、ここからリピーターが生まれる。
しかし、企業は売り上げが落ちるとこの程度のことも判断できなくなってしまうのだろう。「大手に近い味にしよう」は、負のスパイラルに陥った企業が迷走して打つ悪手そのものだ。
その後、井手氏は、会社の再建をネット通販に賭けた。彼はネット通販で人気がある企業を分析、こう定義づけた。
「ネットでわざわざ買いたくなるものって、『世界中、ここにしかないもの』じゃないだろうか?」
彼はあえて、最初の商品に「英国古酒」(現在は「ハレの日仙人」として発売中)という製品を選んだ。タンクで約2年間、長期熟成させたビールで、飲むと「これがビールなのか」と驚くほどの深くどっしりとした味わいと、レーズンのような芳醇な香りがある。造るのに手間も時間もかかるから、値段は750ミリリットル入りで3000円。
「製造担当者がこだわって造ってみたんですが、まったく売れませんでした。小売店に缶ビールを買いに行ったときに3000円のビールに出会っても、買う人はいません。お店だってそんな在庫は抱えたくないはずです。でも僕は『この製品こそネット通販で売れるんじゃないか?』と考えました」
この時点までに、わずかながら、同社のネット通販で製品を買った顧客がいた。同社のビールをわざわざ通販で買った物好きな人たちばかりだから、滅多に飲めない長期熟成のビールに興味を持ってくれるかもしれない。
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