3000円のビールは、なぜ一晩で完売したのか

持たざる者の「逆を突く」戦略とは?

井手氏は自分の考えに半信半疑ながら、楽天市場に「英国古酒」の販売ページをつくり、メールマガジンを書いて顧客に送った。その後、自宅に帰って風呂に入り、通販ページを見てみると――。

1本3000円でも大人気の「ハレの日仙人」

「驚きました。それまでまったく売れなかったビールが、すでに完売していたのです」

鮮やかに新と旧が入れ替わる劇的な瞬間だった。井手氏が話す。

「100人のうち90人が好き、という製品は、確かに偉大です。大手さんの製品はそれでいいと思います。でも小さなメーカーは『100人のうち1人しか好きじゃない、しかしその1人は製品を探してでも買ってくれる』といったファンが必要だったのです」

造っているものは、同じビールだった。だが、販売方法を考えると、まるで別の商品だったのだ。

製品名は『前略 好みなんて聞いてないぜSORRY』

筆者は、ある電子機器メーカーの経営者から「企画会議で9割反対、1割熱望なら、その商品は売れる」と聞いたことがある。その社長はこう語った。

「人はおカネを何に使うか優先順位をつけます。誰にとっても優先順位3~4番目の電子機器をつくっても、まず売れません。ある人はまったく興味がない、でも別の人は『こういう商品を待っていた!』と喜ぶ、それでいいのです。1割が喜ぶ、でもまだ多い。日本人の1割って1200万人じゃないですか。1%が大喜びして、ほかの99%は無関心、くらいで充分売れますし、そういう商品を出していると、お客さんが別のお客さんに勧めてくれるなど話題になりますよ」

その後、ヤッホーブルーイングは、全方位向けの戦略を一切やめ、「ビールが好きでたまらない」「美味しいビールをわざわざ探して買う」層だけにターゲットを絞った。

結果として、これが同社快進撃のきっかけになった。

「その後の製品は、たとえば『前略 好みなんて聞いてないぜSORRY』なんて製品名です(笑)。和の食材を用いて、我々スタッフが飲んでみたいビールを自由な発想で造る数量限定の企画で、最近は『セッション柚子エール~あら塩仕立て~』という製品を発売しました。コピーは『海のあら塩で柚子の個性が炸裂!』です」

何が正義で、何が悪か、企業の思考回路が変わった瞬間だった。その後、同社のこの方針をもとに、メールマガジンで多数のファンを獲得していく。

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