首相官邸は、ノーベル経済学賞受賞者であるジョセフ・スティグリッツ氏、ポール・クルーグマン氏などを呼んで意見を聴取する「お勉強会」(国際金融経済分析会合)を催している。巷間の通説では、これは、2017年度に予定されている消費税率引き上げを再延期ないし凍結するためのお墨付きを求めた「儀式」だということらしい。
確かに、わざわざ大物を呼びつけておいて、反対意見を聞いた挙げ句に、「しかし、消費税率は予定通りに10%に上げます」というのでは格好が付かないから、そうなるのだろう。さらに、5月のサミットの前後に安倍首相が「決断」し、7月の参議院選挙を与党有利に戦うというもっともらしいシナリオが広く語られている。しかし、経済政策を真面目に考えると、いささか気に入らない。
消費増税実行ならネガティブサプライズ
そもそも、これだけ通信技術の発達した現代にあって、スティグリッツ氏でも、クルーグマン氏でも、話を聞きたければ、いつでも速やかに意見を聴取することができるはずだ。わざわざ「儀式」に時間をかける必要はない。さっさと意見をまとめて、政策に反映させたらいいではないか。消費税率は、権威たちの意見を待つまでもなく上げない方がいい。そして、その発表は早ければ早いほどいい。
なぜなら、「期待」の影響が大きいからだ。企業は将来の需要を見越して、設備投資や正社員の採用を行おうとするし、賃金も考える。消費税率の引き上げは、需要にとって、未来にわたって継続的に効くネガティブ・インパクトなので、これが「あるのか・ないのか」は大違いだ。さきの春闘の「ベア」が冴えないものに終わった原因の一つに、消費税率引き上げの凍結(「再延期」よりも「凍結」がよりいい)をさっさと発表しなかったことがあろう。
さらにもう一つ言っておこう。すでに、多くの国民が(経済関係者では8割方が)、2017年の消費税率引き上げは「ない」と思っている。今後、「予定通りに実行する」という方向が明らかになると、ネガティブサプライズが働き、株価が暴落しかねない。安倍政権が大いに気にしている「あの株価が」であるから、これは大変だ。
消費税率引き上げを予定通りに実施する選択肢は、現実的にはもうないと考えていいだろう。ただし、投資家にとっては、「万一そうなった場合には、相当つたないことになる」という意味で、悪しきリスク・リスクシナリオとして注意が必要だ。消費増税は、今やそういうレベルの問題だ。
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