「増税見送り」が妥当といえるこれだけの理由 今こそ家計所得に対する政策的手当が必要だ

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第3回目の国際金融経済分析会合に出席したクルーグマン米プリンストン大学名誉教授も再増税に慎重な意見を示した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

2017年4月の消費再増税先送りの可能性が高まっている。3月中旬に、内閣府参与の浜田宏一・本田悦朗両氏がメディア等を通じて、経済情勢を踏まえて消費増税に慎重な見方を相次いで示した。注目されるのは、本田参与が「消費増税を凍結する以外に道はない」「消費税率を現行の8%から7%に下げて、国民に対するメッセージを明確にする選択肢もある」と、凍結に加えて減税のオプションに踏み込んで言及した点である。

10%までの税率引上げが一度は既定路線となり、減税は政治的には極めて高いハードルだが、高いボールを投げて、増税凍結を実現しようということだろう。脱デフレを最優先に掲げる安倍政権にとって、法律で定められた消費増税は民主党政権が残した政治的負の遺産と位置付けられるが、安倍政権はこれまで柔軟な立場を保っていた。2015年10-12月GDP成長率がマイナスとなったことが判明した2月末から、経済情勢に応じて増税判断を行う必要性が、複数の政治家からも示されている。

国際金融経済分析会合の意味合い

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急きょ開催が決まった国際金融経済分析会合にも、官邸や浜田・本田両氏の意向が影響しているとみられ、2014年11月の消費増税先送りが決まった時と同様、消費増税に慎重な立場を持つ一流の経済学者が招かれ、スティグリッツ、クルーグマン両教授が、景気回復を阻害する再増税に引き続き慎重な意見を示した。現状2%インフレ目標実現に足踏みしており総需要不足が続いている状況では、成長を押し上げる金融財政政策が必要になると標準的な経済理論は教えているが、それに沿ったオーソドックスな政策提言である。

先進各国はリーマンショック後に緊縮財政策を行ったが、2011年のイギリスVAT引上げ、2013年の米国の増税・歳出削減(財政の崖)、2014年の日本の消費増税、そして2011年から2012年の債務危機を挟んだユーロ圏の歳出削減、が挙げられる。いずれも政策金利がゼロの領域という平時から遠い中で、緊縮的な財政政策が成長にブレーキをかけた。非伝統的な金融緩和の支えで景気回復は保たれたが、FRBが一足早く金融引き締めに転じた米国以外では、成長減速による税収押し下げで財政健全化がむしろ遠のいたとみられる。

緊縮財政のブレーキが強かったため、日本、ユーロ圏では2016年になっても金融緩和強化が必要な状況にある。このため、総需要不足と低インフレの中では、マクロ安定化政策を徹底する必要があるとの認識が強まり、2月に上海で開催されたG20では財政政策による成長押し上げが必要とされた。

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