「増税見送り」が妥当といえるこれだけの理由 今こそ家計所得に対する政策的手当が必要だ

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上述の企業・家計の所得と税収の動きを踏まえると、名目GDPの回復の伸びが鈍いのは、家計所得の目減りでほぼ説明可能と考える。企業から家計への所得分配を後押しすることが政治テーマとなっているが、2014年の増税によって政府への所得移転が行き過ぎたことで、公的支出拡大の恩恵を受けない大多数の家計負担を高め、民間部門の成長エンジンを弱めた側面はかなり大きいと考えられる。

一時的な減税は成長底上げのオプション

公的支出の削減が難しい中で一定の税収を確保するのは必要だが、アベノミクス発動以降に成長率が回復する過程で、企業vs家計の格差だけではなく、政府vs家計の増税を通じた官民格差も同様に広がったといえる。名目GDP600兆円を目指し成長を長期化させる観点で、停滞したままの家計所得や消費拡大は言うまでもなく必要だが、同時にアベノミクスに対する国民の支持を保つために、家計所得への政策的な手当が必要になっているように思える。

回復が遅れている家計所得と消費回復を支え、経済成長を高めて脱デフレを後押しするには、増税先送りは妥当な選択だし、本田参与が言及したように減税も成長底上げのオプションになる。

政府支出拡大も一つの手段だが、すでに税収がバブル後の最高水準まで戻り、政府支出は高止まりしている。2014年消費増税時になし崩し的に決まった公共投資発動のように、裁量的な支出拡大は資源配分を歪める弊害がある。数兆円規模の年末の補正予算策定が常態化しているため、増税と補正予算拡大が同時に行われ、公的支出が膨らみやすい実情がある。

このため、成長押し上げに追加的な財政政策が必要ならば、一時的な減税がベターな手段になるだろう。減税によって、1)民間主導で持続的な経済成長を支える、2)裁量的な政府支出で資源配分を歪めない、3)増税を理由とした公的部門の肥大化を防ぐ、というメカニズムが働くため、長期的に財政健全化を実現する観点から望ましいと考える。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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