「増税見送り」が妥当といえるこれだけの理由 今こそ家計所得に対する政策的手当が必要だ

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 2014年4月の消費増税が始まった直後に、「財政収支の帳尻合わせの増税は視野が狭い政策対応」と筆者は消費増税を批判的に評価、減税が必要である可能性に言及した

経済状況に応じて適切な金融・財政政策の手段を選択しないと、財政健全化が遠のくことは、1997年の増税後に税収が減少し続けた日本はすでに経験している。2014年度は金融緩和によって企業業績の改善が続いたおかげで税収は増えた。ただ、安倍首相が「(消費税を)上げなければ、税収は今頃もっと増えていただろう」(2月27日)と述べたと大手メディアが報じたが、2015年になっても個人消費がほとんど回復していない現状を踏まえれば、この認識は妥当に見える。

増税負担で家計所得が抑制されている

2015年10月の再増税は先送りしたが、2016年に入っても2%のインフレ安定実現に足踏みが続いており、2017年の消費再増税も同様にリスクが大きいと考えるのが自然である。最後は、今後の経済指標などを踏まえた官邸の判断になるが、前期の大幅なマイナス成長の後の1-3月GDP成長率(5月中旬公表)は、よくて小幅なプラス成長にとどまるとみられ、消費増税先送りの判断を後押しするとみられる。

安倍政権は名目GDP600兆円の実現を掲げているが、2015年10-12月時点で名目GDPは約500兆円で、ボトムだった2012年10-12月以降の3年間で約30兆円増えた。それまでの減少トレンドが上昇に転じたが、リーマンショック直前のピークの515兆円に及ばないばかりか、バブル後ピークの524兆円(1997年央)と比べても依然約25兆円下回っている。

中でも、消費増税による8兆円規模の負担もあり、2015年の家計の可処分所得は、1997年のピーク対比で約30兆円下回ったままと試算される。一方、企業利益は2015年にはリーマン前のピークを越えて過去最高を更新した。企業利益が増え続け、そして2013年から雇用は増え始めたが賃金が抑制されたままなのに増税の負担で家計所得が高まらず、名目GDPが抑制された状況が2014年から続いている。

経済全体の分配をみるうえで、家計・企業に加えて政府も重要だが、政府部門の税収は、デフレ圧力の緩和を伴う景気回復と増税によって、2015年までに100兆円規模まで増えたと試算される(国民経済計算における一般政府の税収)。この税収の水準は、2007年度(92.3兆円)を上回り、1991年のバブル崩壊直後の過去最高水準に肩を並べる。

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