山田洋次監督の喜劇映画は、なぜ笑えるのか

「家族はつらいよ」の制作秘話

――そういった会話が後々、映画に生かされると。

そうですね。そういった興味や好奇心から得た話が頭の中の引き出しに細かくうまく整理されていると思うんです。そして何かをやるときにうまく出されるんですよ。僕らだと、どこにあるのかわからなかったり、忘れてしまったりするものですけど、山田監督はピピッと瞬時に出てくるんです。引き出しが多いんですが、いらない情報はさよならされていきますね。それが訓練されたものなのか、天性のものなのか、それは僕には計り知れないですが、引き出しから出てきたものが、シナリオにどんどん反映されているんです。

お客さんが劇場に行きやすい時期に公開したい

――公開は逆になりましたが、『家族はつらいよ』の完成直後にすぐに『母と暮せば』の制作に取りかかりました。創作意欲の旺盛さには驚きを感じてしまうのですが。

そういうふうにずっと育っているからじゃないですかね。『男はつらいよ』を盆と暮れに公開し、その合間に『故郷』や『幸福の黄色いハンカチ』といった映画を撮っていた時期が何年もありましたからね。さらにその間に『釣りバカ日誌』の脚本を書いていた時代もありました。いつ休んでいるのかと思うこともしばしばです。その時は毎日のように山田監督と会っていましたので、奥様からは、私よりも会っているわよと言われたくらいです。今振り返ると、山田監督の好奇心や、創作意欲、情報の整理の仕方などはその時からずっと変わらないですね。

――ただお元気とはいえ、年齢的なことを考えると山田監督の体調管理は考えなければいけないのではないでしょうか?

それは僕たちの大命題です。撮影時における1日の開始時刻から終了時刻まで考えています。それから何日間撮影したら、何日休むとか、もちろん全体の撮影期間まで考えます。今や日本の監督では珍しいことですが、山田監督はほとんどが順撮り(シーンを頭から順番に撮影する)でやっているので、メインセットは建てっぱなしです。それは当然、制作費に跳ね返ってくるんですが、製作委員会各社も山田監督の撮影方法を承知のうえで、参加してくれております。

フィルムで撮る質感は独特なものがある(c)2016「家族はつらいよ」製作委員会

――山田監督といえば、いまだにフィルムで撮ることにこだわっている監督のひとりだと思うのですが。フィルムのストックは大丈夫なのでしょうか?

デジタル時代になってアメリカでフィルムの生産を止める話があり、日本でも生産を中止する会社がありましたが、それが見直されて今はフィルムは生産されています。もちろん昔に比べればフィルム撮影の絶対数は少ないですが、フィルムの質感は独特なものがありますし、僕もフィルムが好きですからね。もちろんデジタルの方がCGが多くなっている時代には便利だと思うときは多々あります。

僕が撮影所に入りたての頃は、撮影に使うことができるフィルムの長さが決められていた。たとえば完成尺が90分映画の場合、8100フィートなのですが、会社から認められるのは確かその約3倍。それ以上使ってしまうと、始末書を書くんですよ(笑)。会社からは、「なんで注意しないんだ」と言われる。山田監督の作品ではそういうことはありませんでしたね。山田監督は松竹の人間ですし、そうやって育ってきたので、会社との話し合いで尺が90分とか120分とか決まったら、そのルールは守ってくれていました(笑)。

――山田監督の作品はシニア層にも広く支えられてきて。この層は、映画館で映画を観ることに慣れ親しんでいる層ではないかと思うのですが。

そのとおりです。山田監督作品を支えてくださった層もだんだんと年齢を重ねてきているし、ネットを使うようにもなってきたので、別に映画館に行かなくてもという考え方を持つ人が増えてきました。

また、公開時期に影響があるのは天候ですね。雨が降ったり、寒かったりすると、外出も大変ですから、最近会社にお願いしているのは、「山田監督作品は暖かくなってから公開してほしい」ということです。真冬はやめてほしいと言っています(笑)。お客さまが足を運びやすい時期に公開するというのも、ひとつのビジネスの考え方です。当然、その時期に他社が強力な作品を出してくるかもしれませんが、山田監督の作品は比較的、他作品とのバッティングが少ないし、年齢層も比較的高いので。そういう意味では公開する季節や時期を決めるのもプロデューサーとして必要な事です。

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