――一般のお客さん向けの試写会に伺ったら、お客さんが大笑いをしていて、『男はつらいよ』が上映されていた劇場のような雰囲気でした。山田監督の喜劇作家としての資質はどのようなところにあると感じていますか?
山田監督は幼い頃にいた満州の家に落語全集があって、それをずっと読みふけっていたそうです。しかし、引き揚げの時にその全集を持ち帰ることができなかった。それを悔やんでいたらしくて、日本に戻ってきてから方々探してようやく手に入れたという話を聞いたことがあります。つまり、少年の頃からそういうものに興味があったということでしょうね。それから監督になって、素晴らしい喜劇俳優さんに恵まれたということもあります。渥美清さんの前には、ハナ肇さんがいたわけですし、西田敏行さんもそうです。そういう方たちとの縁は大きかったと思いますね。
役者との対話から新しいせりふを生み出す
――山田監督の現場での演出はどのような感じなのでしょうか?
山田監督が書いたシナリオがありますので当然、そのシナリオをもとに俳優さんが演じるわけですが、テストを重ねる中でこうしゃべったら、こういうふうに動いたらもっと面白くなるのでは? といったアイデアがどんどん出てくるんです。人間に対する観察力みたいなものが非常に優れていると思います。だから監督は、撮影前の本読みやリハーサルというものを非常に大事にしています。俳優さんと話すことによって、そのキャラクターを作り上げていく。そういう技術はやはり長年やってきたからできるのだと思います。
――山田監督は、最初の台本にこだわらずに、せりふなどもどんどん変えていくタイプですか?
その場で変えることも多かったですね。撮影当日に撮るシーンの号外(各シーンの台本修正)が配られることもしばしばでした。それを台本に貼り付けていくんですが、終わる頃には台本が倍くらいに膨らんでいたこともありましたね(笑)。
――突然の変更ということで、現場も大変だったのでは?
そうですね。新たに小道具を用意しなければいけない場合もありますし、俳優さんによっては、まったく違うせりふを覚え直さないといけないこともある。ものすごく冷や汗をかいている方もいましたね。それでも山田監督は、どういうせりふを言えば楽しくなるか、どういう動きをしてもらったら楽しくなるかということを本当に撮影のギリギリまで考えていらっしゃる。僕は山田監督と知り合ってから30年以上経ちますが、いまもそうですね。そういう熱意はまったく今も昔も変わらないです。
――山田監督の情熱の源はどこにあるのだと思いますか? もちろん映画がお好きだということはあると思いますが。
映画が好きだという気持ちは当然だと思うんですよ。そういう気持ちがなければ何もできないですから。それから好奇心が非常に旺盛ですね。たとえば僕たちが雑談で話したことであっても、ちょっとでも山田監督のアンテナに引っかかると、詳しく質問してくるんですよ。『それはどういうこと?』『その時には、君はどう言ったの?』といった感じで(笑)。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら