出版総崩れの中で独り勝ちの角川、文庫で圧倒的な利益を稼ぐ
京都・池田屋に斬り込んだ二番組長、永倉新八は新撰組幹部唯一の生き残りだ。今年5月、永倉が語り残した『新撰組顛末記』が新人物文庫として出版された。発売からわずか4カ月で、すでに6刷を数え、ベストセラーとなっている。
新人物文庫を展開する新人物往来社は、2月に角川グループホールディングス(以下、角川)の傘下に入った。現在同社が角川の孫会社であることを知る読者は、まずいない。
今期はさらに黒字拡大 目立つ角川の独走
大手出版社が軒並み赤字に転落する中、角川の善戦が目立つ。2008年度営業損益では、講談社が63億円、小学館は76億円と、いずれも赤字が拡大。「09年度はさらに悪化するおそれがある」(大手取次)。一方、角川の営業利益は08年度35億円から09年度50億円と黒字拡大が予想される。3社の中では、今や売上高でも角川がトップに躍り出ている。
出版業界の置かれている状況は、今まさに土砂降り状態。1996年から出版物の販売額はほぼ一貫して右肩下がりで、08年には96年比で25%減の水準まで落ち込んだ。長期低落傾向に加え広告の減少が直撃、08年の広告集稿は11%強減っている。さらに返品率の上昇も利益を奪っている。雑誌で33・6%、書籍で40・6%と、返品率は08年度におのおの1%近く上昇してしまった。雑誌で稼ぎ書籍の赤字を埋めるという、大手出版社のビジネスモデルは、ここへ来て完全に崩壊した。
一方、角川は利益を出版部門で稼ぎ出している。出版の粗利の6割近くを文庫が稼ぎ、さらにライトノベルが文庫の粗利の6割を上げる。ライトノベルは、表紙や挿絵にアニメ調のイラストを多用する若年層向けの小説で、近年伸びが著しい。