出版総崩れの中で独り勝ちの角川、文庫で圧倒的な利益を稼ぐ
そもそも角川は、88年に「角川スニーカー文庫」でライトノベルに進出した。その特徴は当たり外れが少ない点にある。シリーズの巻数も多く比較的部数を読みやすい。どの店で何冊売れるかまで把握できるほどで、ライトノベルやコミックでは指定配本(書店ごとの配本数を出版社が指定する)を行っている。
結果は返品率の低さとなって現れる。角川の書籍の返品率は業界平均に比べ8%以上も低い(08年度)。
だが、いくら当たり外れが少ないとはいえ、そもそも力のあるコンテンツを生み出してこそ、の話だ。
角川はグループ7社で17ブランドの文庫本を出版している。文庫本のシェアではトップを走る。文庫本全体の2割を占めるライトノベル分野では、さらに8割のシェアを握る。中でも「角川スニーカー文庫」「電撃文庫」などグループの4ブランドがしのぎを削っており、いわば、グループ内の編集者同士がライバル関係になる。
「図書館戦争」シリーズがヒットした有川浩氏。04年に角川の子会社メディアワークス(現・アスキー・メディアワークス)からデビューし、その後は角川書店本体からも、『クジラの彼』『植物図鑑』など多くの著作を出している。こうした優れた作家を同じグループの編集者同士が取り合うことになる。
グループ内で企画競争も 販売は一本化の強み
ところが、これはあくまで製作現場での話。販売面は、角川グループパブリッシングが一手に担い、角川出版販売が店頭での販促活動を統一して行っている。
販売部門の統合は合理化効果以上に、グループ内各社の販売データを自由に使えるメリットをもたらす。たとえば、アスキー・メディアワークスでの有川氏の販売データを参考にしながら、角川書店での著作の刷り部数等を決めることができるのだ。
角川書店(年商300億円規模)、アスキー・メディアワークス(同250億円)などの特色のある出版社同士がグループ内でも競い合い、一方で販売・販促は一本化する。これが、角川高収益の大きな要因だ。