世界を代表する女性の肖像22人が訴えるもの アニー・リーボヴィッツが捉えた女性の変化
「『WOMEN』のときと比べ、今回は被写体となる女性を比較的容易に見つけることができたように感じます。16年前よりも女性の活躍が顕著になったからだと思います。ヒラリー・クリントンがいま、大統領選に立候補していることが、なによりそれを象徴しているのではないでしょうか。当選すればアメリカの初の女性大統領ですから、とてもエキサイティングなタイミングなのです」
写真の歴史でも女性は男性と平等に扱われてこなかった
今年66歳になるリーボヴィッツは、レズビアンを公言している数少ない女性フォトグラファーでもある。『WOMEN』を始めるきっかけとなった作家のスーザン・ソンタグとは、1986年に出会い、スーザンの亡くなる2004年まで恋人関係にあった。2001年には52歳で長女サラを出産、2005年には代理母の出産でスーザンとサミュエルの双子をもうけた。男性優位の写真界の中で、しかもセクシュアリティをオープンにしながら、半世紀近く最前線で活躍してきたリーボヴィッツは、「女性だから」という言い訳と闘ってきた人間である。
「私はいままで、自分を女性フォトグラファーであると意識したことはありませんでした。しかしある日、女性運動家であり友人でもあるグロリア・スタイネムが私のスタジオに訪れた際にこう言いました。『あなたは男のカメラマンみたいに、大きくて立派なスタジオを持っているのね』と。ハッとしました。写真の世界で、撮影に耐えるとされてきたのは、長い間若い女性だけで、そのポーズも限定されていました。写真の歴史を見れば、ここでも女性は男性と平等に扱われてこなかったのです」
リーボヴィッツが描き出す女性像は、ときにスキャンダラスで、ときに啓示的だ。一糸まとわぬ妊娠中のデミ・ムーア、性適合手術後のケイトリン・ジェナーがそうだったし、美女名鑑として知られていたピレリカレンダーにエイミー・シューマーのぽっちゃりとした半裸を登場させたのも、時代の“常識”に挑み、観る者に“美”とは何かと問い続けてきた彼女らしい挑発である。
「デミの妊婦姿が『ローリング・ストーン』に掲載されたとき、彼女が不安になって電話をかけてきたのを覚えています。『私たちがしたことははたして正しかったのか』と。しかし世間の反応は、驚くほどポジティブなものばかりでした。ケイトリンの場合も不安はありました。国民的英雄だったブルース(ケイトリンの“男性”時代の名前)が、65年間生きてきた男の姿と決別し、女性として生きていくことを決意したわけですから。私は“彼女”の生まれ持った外見ではなく、人工的に手に入れた外見をベストの形でカメラに収め、新しい出発ができるようお手伝いをしただけです」