世界を代表する女性の肖像22人が訴えるもの アニー・リーボヴィッツが捉えた女性の変化
時代を代表する著名人を数多く撮影してきたリーボヴィッツだが、今回撮影を望んで実現しなかった人物はいたのだろうか。
アンゲラ・メルケル
「ドイツ首相であるアンゲラ・メルケルです。ずっとラブコールを送っています。2004年に、エリザベス女王を撮影する機会がありました。それはいまでも信じられない体験でした。撮影後広報官に『どうして撮影の許可をいただけたのですか?』と聞きました。返ってきた答えは、『5年前に手紙を書いてくれたじゃないですか』というものでした。1999年の『WOMEN』のための撮影依頼が、5年後の2004年にやっと実現したわけです。ここでの大切な教訓は、辛抱強く待つということの重要性です。5年という歳月でも、エリザベス女王は覚えていてくれたわけですから」
この写真展のなかで特別好きな写真はあるのだろうか。
「年を重ねて分かったことなのですが、一連の作品はすべて特別な作品なのです。一枚だけ選ぶことはできません。それぞれの写真はお互いに兄弟みたいなものですから。しかしここにある母の写真は私にとって重要です。1999年の『WOMEN』でのものですが、撮影時母は、年老いた自分の姿を撮られることを嫌いました。しかしレンズを覗くとそこには美しい母がいました。被写体である母と私の間にカメラはないのも同然でした」
最後に私は聞いた。あなた自身はこれら22枚の写真が社会にどのようなインパクトを与えると考えていますか?
「ああ。私はフェイスブックのCOOのシェリル・サンドバーグとその点については同意見です。つまり、自分の仕事がその後どのようなインパクトを社会に与えるかなんて考えることはないということです。本来なら、自分の言葉で説明できればいいのかもしれませんが、作品がおのずからメッセージを語ってくれると信じています。写真には写真の声がありますから」。
リーボヴィッツは、白い歯をみせて笑顔をつくった。そして、礼を言うとその場を去った。
彼女のいなくなった会場で私は、リーボヴィッツが撮った女性たちの肖像をあらためて見ていた。そしてモノ言わぬ写真を通して、立ち去ったはずのリーボヴィッツの存在をかえって強く感じた。どのポートレイトにも彼女と同じように物静かだが、しかし動じずに私を見通そうとするしたたかな視線がそこにあったからである。
(文:高田景太(GQ) )
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