甘糟りり子、アンジェリーナ・ジョリーを語る 彼女をみてると、なぜか心がざわつく
新しい物事に興味はあるけれど疑い深く、なるべくアップダウンのない無風の状態でいたいと願う保守的な小心者。それが私である。ごくごく標準の、世間によくいるタイプだと思う。そういう私にとってアンジェリーナ・ジョリーは好きとか嫌いとかいう対象ではなく、脅威といっていい存在だ。
癌予防のために両乳房を切除
彼女の乳房切除のニュースを耳にした時、怒りに似た感情がわき起こった。「どうして、そんなことをするの?」という気持ちになった。ご存じのように、彼女は遺伝子検査を受け、乳癌になる確率が87%という結果が出た。それを受けて、癌予防のために両乳房を切除したのだ。今の時代、たとえ癌になったとしても乳房を全摘出するとは限らず、かなり思い切った選択である。さまざまな記事を読みあさり、切除は本当に必要だったのだろうかといぶかしく思った。記事に出てくる87%という数字が奇妙な記号のように見えた。
乳房を切るというのは、たいていの女性にとって、できるだけ避けたいことだ。外見的なことだけではない。乳房は女性性のアイデンティティーである。アンジーは、切除をした後に、乳房の再建手術も行った。自分の胸に、自分のものによく似た、でも自分のものではないそれがあるのは、どんな心境になるのか、経験のない私には想像もつかない。
誤解を恐れずにいえば、何でもかんでも数値化して人生のすべてを操ろうとするやり方(のように、その時は思えた)に、少なからず反感を抱いた。もっと流れに身を任せればいいのに。
そんなことを感じていたくせに、私も先日、遺伝子検査を受けた。アンジーのような本格的なものではないけれど、近い将来、特定の数種類の癌にかかる可能性を4段階で判別する検査だ。幸い大した心配もない結果で、安心を手に入れることができた。癌の可能性が高い数値が出ていたら、私は何らかの対処をしたはずだ。
彼女は、いつでも旧い価値観を揺さぶる。行動で新しい選択を提示してくれる。だから目が離せないし、素直に受け取れない。