伊那食品に学ぶ「今の日本に必要な資本主義」 会社の決算なんて、3年に1度で十分だ
大久保:一般的には、企業は成長してナンボという考え方が広まっていますが、そうではないということですね。
塚越:うちも2005年に寒天ブームが起った時、売上が急激に伸びたのです。でも、ブームが去ると一気に売上は縮小しました。その時は、設備投資や人材確保で背伸びせず、自分たちが持っているポテンシャルの範囲内で対応したので、売上が落ちても経営面で大きな影響は生じませんでしたが、急な成長は会社にとって決して良いものではありません。屋久杉の年輪は非常にきめ細かい。これは毎年、ほんの少しずつ成長しているからです。結果、樹齢6000年なんてものがある。経営も同じで、少しずつ成長していくのが大事です。それが経営の永続性につながります。毎年、ほんの少しずつ成長していくのが良いのです。
社員全員の幸せを実現させるために会社がある
大久保:塚越会長は『リストラなしの「年輪経営」』という本を書いていらっしゃいます。そのなかで家族経営について触れていらっしゃいますね。ちょっと昔の話になるのですが、2010年に横浜で開かれた日本APEC(アジア太平洋経済協力)に参加した時、海外の参加者から、「これからは家族経営の時代だ」という意見を聞けたのがとても印象に残っています。塚越会長の家族経営に対するこだわりは、どこから来たものなのですか。
塚越:人生が楽しくなかったら、この世に生まれてきた意味がありませんよね。そのためには、家族といる時間も楽しく、会社で働いている時間も楽しくすることが大事です。たった1度の人生ですから、無駄な時間はどこにもありません。会社も家も人生の一部なのです。そして、社員全員の幸せを実現させるために会社がある。これまで、私はひとりも社員を辞めさせたことはありませんし、新しい人も必ず入れています。それで、少しずつ会社を成長させていったら、いつの間にか500人になっていた、というわけです。結局のところ、人間にとって幸せとは何かという根幹に関わることを考えているうちに、家族経営に行き着いたのです。
大久保:今、欧米型資本主義の考え方が蔓延していて、企業は利益を上げるためにどんどんリストラをし、雇用の調整弁ということで非正規労働者を抱え、ROE経営に奔走している。この風潮を、塚越会長はどのように見ていますか。
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