伊那食品に学ぶ「今の日本に必要な資本主義」 会社の決算なんて、3年に1度で十分だ

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塚越寛(つかこし ひろし)/伊那食品工業株式会社代表取締役会長。昭和12年、長野県駒ヶ根市生まれ。昭和29年、伊那北高等学校を病気療養のため中退。昭和33年、伊那食品工業株式会社に社長代行として入社。昭和58年、代表取締役社長。平成17年より現職。平成7年、「科学技術庁長官賞」科学技術振興功績者表彰(粉末寒天の開発功績により表彰)。平成19年、中小企業研究センター(経産省)による「グッドカンパニー大賞」で最高賞のグランプリ受賞など受賞多数。全国各地で「年輪経営」について講演を行うほか、当社の視察に訪れる経営者団体、大手企業の経営幹部等にも多数講演を行っている。主な著書に『いい会社をつくりましょう』『リストラなしの「年輪経営」』などがある。

朝礼で必ず誰かが、人前で3分間話をするのですが、それは人前で話す場面に直面した時、恥をかかずに済むよう、こういう場を利用して人前で話す訓練をすればいいということでやってもらっています。掃除も、自分で工夫して事に当たるためのスキルを磨くことができます。そう考えると、すべて自分に帰するものであり、自分のためだと思えば、少しでも良いものにしようと工夫するでしょう。それが掃除にしても、朝礼の挨拶にしても、長く続けていくためのコツだと思います。

大久保:確かに、上司からの命令でやらされていると思うと、言われたことしかやらなくなります。でも、自分の創意工夫で物事が改善されたり、より良いものが出来上がったりすれば、やる気にもつながっていきます。

塚越:この敷地には研究棟があって、100人ほどの社員が仕事をしています。5階建てで、当然、エレベーターを設置しているのですが、皆使わない。せっかくだから健康のために階段を上ろう、ということになったそうです。

大久保:自分のためだとわかっていても、人は自分に対して甘いじゃないですか。どうすれば、万事が自分のためになるのだという強いモチベーションを持つようになるのでしょうか。

塚越:人生はたった1度であることを教えるのですね。100年カレンダーといって、自分の生まれ年から100歳になるまでのカレンダーがあるのですが、たとえば自分の寿命が80歳だと想定した場合、残りの時間がどのくらいなのかが、可視化されるのです。そうすると、1度きりの人生で無駄な時間はどこにもないことがわかりますし、下らないことに時間を費やしているのはもったいないことにも気付きます。そのうえで、この会社で働くなら、皆で力を合わせて頑張ってみてはどうかと、社員には言って聞かせるようにしています。

重視する採用基準は「協調性」

大久保:伊那食品工業が人を採用する際の基準はどういうものなのですか。

塚越:一番大事なことは協調性です。特別、ほかの人に比べて秀でている能力は必要ありません。一般的には、会社を成長させるために優秀な能力を持った人間を採用したがりますが、うちはあくまでも協調性。絶対的な能力よりも、個々人が自分の持っている能力を最大限に発揮し、トータルで大きな力になれば、それで良いと思います。会社は、成長性を重視する必要なんて、どこにもないのですよ。

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