日本人が職場に「不平不満」を抱える根本原因 職場への要求が世界標準とズレている

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つまり、日本では「多くの社員は自分で仕事が選べない。自ら望まない仕事においては、エンゲージメント(社員のやる気やコミットメント、忠誠心)は削がれがちにならざるを得ない」とリクルートワークス研究所の豊田義博主幹研究員は指摘する。こうした「たらい回し人事」は、前回ご紹介した、作家ダニエル・ピンクが働き手にエンゲージメントを感じてもらう3条件として挙げた「自主性」「成長」「目的」の内の最初の二つを真っ向から阻害するものだ。

自らキャリアパスを構築し、専門性を究め、成長に結びつけていく、というのがグローバルのキャリアの考え方の主流。多くの部署を経験することで人間的な成長に結びつくという考え方もあるが、やっと慣れたな、わかってきたかな、と思ったら、次の部署へ異動の連続であれば、真の「プロフェッショナル」にはなかなか成長できない。

リクルートワークス研究所では、アジア7か国とアメリカの社員に対して、意識調査を行ったが、その中で豊田氏が話を聞いた中国人社員は「自分の仕事の選択を会社にゆだねるリスクなど断じて受け入れらない」と言い切ったそうだ。明確なキャリアパスを示せない日本の国内企業のグローバル人材活用がなかなか進まない背景には外国人プロフェッショナルのこうした意識もあるのだろう。

賃金の優先順位がトップではない日本

リクルートの調査は、「日本の会社員の特殊性」が浮かび上がる非常に興味深い調査だが、最も特徴的だったのが、「仕事をするうえで大切だと思うもの」という項目だ。中国、韓国、インド、アメリカなど他の8か国で最も重視されたのは「高い賃金・充実した福利厚生」。インドネシアでは83.1%、中国では79.0%など非常に高い割合の人が重視している条件であったが、日本では39.0%と格段に低い水準だった。

代わって、最も大切だとされた条件が「良好な職場の人間関係」で56%と、他国が軒並み10~30 %台だったのに比べ非常に高かった。続いて、「自分の希望する仕事内容」が51.3%。他国では、重視された「明確なキャリアパス」は10.5%と低かった。

この結果から見えるのは、日本人が会社に「居心地のいい空間を求めている」ということだ。確かに、プライベートと仕事をきっちりと分け、仕事には自己実現を求める場、と考える欧米などに比べ、残業時間、つまり滞留時間が長い職場に「コミュニティー的なものを求めているのではないか」(豊田氏)とも考えられる。同調圧力の強い村社会、日本において、職場でのフィット感、人間関係が働き甲斐にも最も大きく影響する要因であることにあまり違和感は覚えない。職場もある意味、「村」ということなのだろう。

そうした「職場村」において、なぜ、これほどまでの閉塞感が漂うのか。それはやはり、閉鎖的な空間の中で、コミュニケーションという血脈、水脈が滞っている事態に起因する。アメリカ人7712人を対象にしたギャラップ社の調査によれば、上司のコミュ力は部下のやる気やモティベーションに強い影響力を持ち、上司との間で定期的にミーティングの機会を持ち、コミュニケーションをとっている社員はそうではない社員の3倍エンゲージメントを感じやすいとの結果が出た。

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