ロート製薬の「副業解禁」が示す本当の意味 無用におびえる社員が減り、会社も潤う

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働く側の立場としては、ロート製薬の「社外チャレンジワーク」が、今後の日本企業の副業に対する考え方のスタンダードとなるのは望ましい。会社側も、社員が副業を申告しやすい雰囲気を作ることで、得られるメリットがあるはずだ。

社員に副業を申告させることで、社員の総労働時間を把握して、過重労働になりそうな場合は助言をしたり、副業の許可を取り消したりして、社員の健康管理を行うことができるし、社員がどのような種類の副業を行っているかを把握することで、その社員の能力や適性をより深く把握し、本業の人事にも反映させられるだろう。

多様性から生まれる強み

また、社員に副業を許可することは、ロート製薬が「社外チャレンジワーク制度」の導入にあたって「会社の枠を超えて培った技能や人脈を持ち帰ってもらい、ロート自身のダイバーシティー(多様性)を深める狙いがある」と述べているように、積極的な意味で会社が得られる利点も小さくはないだろう。

ロート製薬のホームページにおいて、会長と社長の連名で記されているトップメッセージには次のような一節がある。

「当社は創業以来、胃腸薬、目薬、外皮用薬(メンソレータム等)、2000年以降は「Obagi(オバジ)」「肌ラボ」等ビューティー関連商品の幅広い商品開発を行ってまいりました。2013年からはアグリ事業、レストラン等の食ビジネス、最先端の医療である再生医療事業への挑戦も行っており、「健康と美に関する、あらゆるソリューションを提供する会社」を目指し、日々活動しております。

ロート製薬は、一般消費者からすれば「目薬の会社」という印象が強いが、現在、目薬関連は売上高の3割に過ぎず、6割をスキンケア商品、残りの1割をフードビジネスなどの新規事業が稼ぎ出している。

つまり、ロート製薬は多角化による事業の発展を基本戦略としているため、新規事業への種まきという意味でも、「健康と美」に紐づく多様な経験を社員にさせるため、副業を解禁することに一定のメリットがあるという経営判断も働いたのだと推測される。社員が築いた外部人脈が、新規事業への参入のきっかけにもなり得る。

さらに言えば、社員に多様性を持たせ、自社のビジネスを積極的に多角化したり、技術が応用できる可能性を広げたりすることで、「有事の際の生き残り」という観点で、強みとなる可能性もあると考えられる。

この点、富士フイルムの業態転換が好例だろう。富士フイルムはもともと写真用フィルムのメーカーとして創業したが、デジタルカメラの普及により、カラーフィルムの需要は2000年度のピーク時から2010年には約10分の1にまで、急速に需要が落ち込んだ。

それでも富士フイルムが生き残り、2014年度決算では過去最高益を記録しているのは、1950年代後半から写真フイルムの技術を応用した新製品を開発し、事業分野の多角化を図ってきた成果だといえる。

具体的には、液晶テレビなどのディスプレイ材料として使用されているタックフィルムの開発、連結子会社である富士ゼロックス社の複写機事業、医療分野やヘルスケア分野への参入などが挙げられる。

当時の富士フイルムの社員が、副業から新規ビジネスのヒントを得たということではないであろうが、少なくとも自社の技術やノウハウが将来的にどのような分野で応用ができそうなのかということを日頃から幅広く考えておくことは、環境の激変期を乗り越え、企業の永続的発展のために重要であるというメッセージを持っていることは間違いないであろう。

ロート製薬に話を戻すと、社員が副業を通じて社外で経験や体験を積むことにより、視野が広がり、斬新なアイデアが社内にもたらされることは、ロート製薬の経営方針に合致し、また、企業の競争力や生存力の強化という観点からも、決してマイナスではないであろう。このことは、ロート製薬のみならず、多くの会社においても、副業のもたらすプラスの効果として、同様に考えてもよさそうだ。
 

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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