ロート製薬の「副業解禁」が示す本当の意味 無用におびえる社員が減り、会社も潤う
したがって、「ロート製薬が従業員に対して副業を解禁した」といっても、法律論上は、当たり前のことを当たり前に述べただけという解釈もできる。しかし、実務的な観点から考えると、ロート製薬の新しい取り組みは社会的に大きな意義がある。
副業の許可申請につきまとう不安
筆者自身の話で恐縮ではあるが、筆者が独立前に勤めていた会社の就業規則では、副業に関しては、一応許可制になってはいるものの、誰にどのような許可を申請すれば良いのか、どのような基準で許可がされるのか、副業を申請したら人事考課にどのような影響があるのかなどについては内規でも明らかにされていなかった。社員の立場としては、おいそれと副業の許可申請をできる雰囲気ではなかった。
筆者は、在職中に社会保険労務士として登録し、セミナーや執筆活動などを行っていたが、上記のような環境の中、手探りで会社に副業の申請をしても、却下されたときに気まずくなりかねないことや、下手をすると「会社への忠誠心が足りない」と査定を下げられかねないことに、恐れを感じた。
かといって、法律論まで持ち出して会社に副業を認めさせるのも大変だと考え、褒められた話ではないと思うが、発覚した時の不安はよぎりつつも、会社には副業の許可は取らなかった。
その後、結果的には独立する意思が固まり、副業の件が特段問題となる前に、円満に退職をして現在に至っているが、もし、私がサラリーマンを続けながら、副業で社会保険労務士としての活動をしたいと考えたならば、在職中のどこかの時点で問題になっていた可能性が高い。
その体験を踏まえると、今回のロート製薬の副業解禁の発表は、会社の許可基準を満たすならば、安心して副業の申請ができる職場環境が用意されたということに他ならず、社員の副業を実質的な意味で会社が認めた先行事例として、社会的に意義の高い発表だったといえる。
会社が副業を認めることで、社員は副業が発覚して問題にならないかどうか神経をすり減らす必要もなくなり、安心して本業にも打ち込むことができるようになる。会社の本業にとってもプラスの影響が見込めるであろう。
副業を許可した結果、副業にのめりこみすぎて本業がおろそかになった場合は、その時点で指導や懲戒処分を行うことが可能だし、本業と競合するような副業を行おうとする場合は申請の時点で不許可とできるし、会社に隠れて競業を行った場合は、懲戒解雇を含めた処分を行えば良い。
筆者自身の体験に限らず、昨年からのマイナンバー対応の実務を振り返っても、我が国のサラリーマンが、いかに会社に隠れて副業を行わざるを得ない状況なのかを痛感させられている。
雑誌やウェブメディアなどでは「マイナンバーで副業は発覚するか」というテーマでの特集があちこちで組まれていたし、私自身も個人の方から「来年からはマイナンバーで副業が会社にバレてしまいますか?」という相談を複数受けた。
経営者サイドからも、「副業で勤務している従業員から、本業の会社に見つからないようマイナンバーは提供したくないといわれたが、そのようなことは可能なのですか?」という質問を受けたこともあったぐらいで、少なからずの人が副業の発覚を恐れ、神経をすり減らしているのだろうということを感じさせられたものだ。
もちろん、合法的な範囲で副業を行っていたにも関わらず、それを理由として降格や解雇をされたら、裁判で争えば最終的には社員側が勝訴できる。
とはいえ、多くの人は、そのような白黒の付け方ではなく、「会社に迷惑をかけない範囲で副業を行うから、会社もそれを認めてほしい」ということを望んでいるはずだ。副業を打ち明けると、会社がどのような反応をするか分からないから、結論としては私のように、副業を隠さざるを得ないということになっているのが実態であろう。
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