ダイバーシティ経営・パネルディスカッション--多様な価値観の尊重・活用で、仕事と企業を変える

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足達 いま梅田さんがおっしゃったことにインスパイアされてのことですが、ダイバーシティの問題に関心を持つ理由は、それが会社の問題であると同時に、日本の世の中の問題だと思うからなんです。

そこでちょっとこんな質問をしたいのです。皆さん、トップは「ダイバーシティ、当然だろう」とおっしゃるどちらかと言うと肯定派でしたが、「企業の強さは結集力である。金太郎あめである。それが強さだ」といった壁をぶち破れるかどうか。ダイバーシティはOKと皆さん口でおっしゃるんだけれども、次に突破しなきゃいけない壁のような気がするんですが、いかがでしょう。皆さんの企業では、「組織というのは多様で、いろんな考え方があって、全員が同じ方向を向いていたら怖いぞ」というような、そういう理解が曲がりなりにもこの10年で進んだとお感じになりますでしょうか。

黒瀬(帝人) さっき控え室で話していて、粘土層が薄くなったかという質問をされて、うちの粘土は油粘土なんで溶けない(笑)、そういうふうに申し上げたのですが、結集力はやはり大事だと思います。ばらばらになったら企業としてやっていけないので、いろんな人がいてもやっぱり結集しているというのがダイバーシティのあるべき姿だと思っています。

抽象的な話ですが、サラダにたとえると、いままで日本の会社って、新卒男性で専業主婦の奥さんがいて仕事がばりばりできる人ばっかりで、いわばレタスだけでサラダを作っているわけですね。もちろんハーモニーとかあまり関係ないので、おいしいサラダだったのですが、それよりも、トマトも入っていたほうがいい、ラディッシュも入っていたほうがいい、オニオンも入っていたほうがいい。いろんな素材が入っていて、もっと価値の高いサラダができるんじゃないのか。企業理念が多分ドレッシングの役割をして、より高い価値の高い一皿の料理を作ろう。それが多分ダイバーシティ・アンド・インクルージョンの考え方だと思っています。それをいかに本当の人間でやるかというのが難しいわけですけれども、そういうことを目指すのがダイバーシティだと私は思っております。

宮原(資生堂) 昔みたいに工場で単一の物を作るような単純作業でしたら、結集力で「明日までにこれ何個作れ」というのはありますけれども、いまはほとんど知的生産になっている。そうなると、会社に座ってパソコンたたいて1日過ごしているよりも、在宅とか、それこそ自分と違った人たちと会っていろんな意見交換することによって、何かこう違う発想が生まれるのではないか。逆にそれが企業の中で、新しい考え方ということでプラスに作用する。単純生産ではもう中国やインドには勝てませんから、いかに頭脳をいろんな経験をして磨いていくかということでは、多様性を生かすことが大事だと思います。

川原(パナソニック電工) 当社の場合も、「経営理念に根差した多様性でなければ組織の力にはならない」という社長の言葉があります。ダイバーシティについての理解が浅いと、わがままな、自分勝手な社員が増えるのではと考えがちですが、そうではなく、マネジャーの力、そして会社としてのしっかりとした経営理念があれば、いろいろな社員のそれぞれの個性と力を会社のために方向性をもってきちんと生かすことができると思います。

梅田(日本アイ・ビー・エム) 日本ではダイバーシティ・アンド・インクルージョンの「ダイバーシティ」のほうだけ先に名前が広まってしまいましたが、本当は受け入れるという側の「インクルージョン」のほうが重要だと思っています。

日本には歴史を振り返っても、新しく入ってきた外来のものを日本化して取り入れるというようなところがあり、海外のものだとそれをそのまま受け入れがちです。最近ノーベル賞を受賞した人もそうですが、優秀な技術者の方などが往々にして日本国内では評価されず、海外で評価されて凱旋して、やっと日本の中でも評価されるということがあります。となると、日本の中ではそういう人が育たないという土壌になっていくわけで、早く手を打たないと、日本の国力がどんどん下がってしまうのではという危機感を、ダイバーシティを担当していて感じます。

足達 皆さんのお話を伺って安心いたしました。この経済危機で、「ともかく金太郎あめの組織をもう一回取り戻せ」という大号令をかけておられる企業がたくさん私の周りにありまして、大丈夫かなあと思っておりましたが、まだまだ日本企業は将来性があると思いますし、皆様のような今回ダイバーシティの評価を得られたような企業がこれから業績も確実に上げていかれることを、ある意味では祈るばかりであります。

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