ダイバーシティ経営・パネルディスカッション--多様な価値観の尊重・活用で、仕事と企業を変える

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司会 いまのこの時代の中で、ダイバーシティ・アンド・インクルージョンが必要だと思わない経営者はいない。もしそれを必要だと思っていない経営者がいたら、多分その人は時代遅れだろうと思います。ただ、どうやってその人の思いを具体的に出してくるか、そしてそれをわからせる形のコミュニケーションの方法をとっていくかということが、担当者として日々なさっておられることかと思いますが、いまその活動の一端が伺えたと思います。

先ほどから審査員のお三方、何かお尋ねしたくて仕方がないご様子です。ではおのおの1問だけお許ししますので(笑)。

須田 私は人事管理の学者なので、どうしても人事からの視点に入ってしまいます。パフォーマンスには長期的なものと短期のものがあると思うんですが、短期的に直近のパフォーマンスだけを考えれば、ラインの管理者からすると、いま使える人を使ったほうがいいわけです。日本の場合はローテーションが入っていますから、それこそ人材の食い逃げをして、やってやれないことはない。しかし、企業というのは基本的にゴーイングコンサーンで、ずっと継続していくものですから、やはりそういう人にはペナルティをつけるべきではないか。先ほど評価の視点を導入されているところもあるというお話でしたが、こうした評価という問題についてどう取り組んでいらっしゃるかを伺いたいと思います。

川原(パナソニック電工) 当社では今年、マネジメント層の評価項目の1つとして「ダイバーシティ」という項目ができました。以前より、組織マネジメントというか、それにつながるような評価項目はあったのですが、あえて「ダイバーシティ」という項目で表示して、管理職の方により意識していただくような項目に落とし込みました。

宮原(資生堂) 企業というのは永続的に安定していかなくてはいけませんし、私どももいま137年という年月を重ねているのですが、やはり短期的だけでは評価されませんし、社員も疲れてしまいます。貧すれば鈍すで、悪い循環が続いていくとなかなか働けないなという状態に陥ってしまいますので、取り組みを行っているわけです。

黒瀬(帝人) 明確にはなっていないのですけれども、広い意味での「人材育成」ということで管理職の評価項目に入っていると考えます。

梅田(日本アイ・ビー・エム) 部門長レベルにはある程度そういう指標が立っていますが、一般の管理職の評価項目には入れていません。その代わり、毎年、全社員が参加するサーベイの中で自分の上司ですとか上長ですとかを社員が評価する項目に、「オープンな風土であるか」「上司がリスクを取るタイプかどうか」といったことが含まれており、はっきり「ダイバーシティ」とはうたっていないものの、そういう評価項目の中でやるという仕組みは入れています。

海野 国際化もダイバーシティの1つとパナソニック電工さんは明確に言われましたが、具体的にどう取り組んでおられるのか。また、ダイバーシティの柱として、女性だけではなく国際化も立てている会社さんがパナソニック電工さんのほかにもありましたら、国際化の視点をお聞きしたい。

川原(パナソニック電工) 「女性、外国人、障害者の社員を全社的に支援するために」ということで、取り組みを行っています。もっとも、グローバルとは言うものの、日本国内にいる外国籍社員はまだ50名程度ですから、やはりまだまだ日本の基準をベースに毎日仕事をしていただかなければならない。そこで、まずはその方々が苦労せずに働けるよう、ビジネス日本語の研修を行ったり、すべて日本語で少しわかりにくいものになっている社内の規則などを英訳化したりして、入ってきていただくことの壁を徐々に低くすることを進めています。今後は受け入れ側の研修など、理解を深めるようなこともどんどん実施していきます。

宮原(資生堂) パナソニック電工さんと比べると低いのですが、当社も対外売り上げは36%。もともと現地法人では女性の管理職比率が半分ぐらいに高まっており、本社からあれこれ特に言ってはおりません。

ただ、人事としても向こうの現地の人たちがどういう活動をしているのかというところには今までなかなか手が届かなかったものですから、2011年ぐらいまでにそういったことも人事のほうで少し改良できる仕組みにしていこうとしているところです。

黒瀬(帝人) 弊社には帝人グループ全体で「コア人材制度」という、男女関係なく幹部層を育てていこうという研修制度があります。これには2種類あるのですが、2つ目のランクの「課長層から部長を育てる」という研修の中に、日本語クラスと、英語で授業をやるグローバルクラスを去年立ち上げました。

また、今年「グローバル人事室」という部単位のプロジェクト組織を人事の中に作り、ドイツの子会社から人事担当責任者、部長クラスの女性を連れてきて室長になってもらい、「帝人のグローバル人事戦略はいかにあるべきか」という1年間のプロジェクトに取り組んでもらっているところです。そこで、グローバル研修、異文化理解研修などいろいろ検討しているようですので、もうしばらくすれば成果が出てくると思います。

梅田(日本アイ・ビー・エム) 日本アイ・ビー・エムはやっぱり日本アイ・ビー・エムなので(笑)、実は日本で採用した外国人の方の活用というのが遅れています。

米国などほかの国から短期間来るのはだいたい上層部でして、もうちょっと下から育てていくというのをやらなければいけないなと思って、ヒアリングをしてみると、「すぐ辞めちゃうから」とか「空気読めないから」とか10年前に女性が言われたのと同じことを外国籍の社員の人たちがいま言われている。その「空気を読めない」というのが日本の中でダイバーシティを推進する重大なネックになっています。日本人というのはどうも、言葉にしてちゃんと説明したり物事の仕組みを作っていったりするという文化ではないので、そのことが海外に比べて日本でダイバーシティが遅れている理由とみて、そこをなんとかしようといま取り組んでいるところです。

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