資生堂、「子育て社員へ遅番要請」は是か非か 小室淑恵ワーク・ライフバランス社長に聞く

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――事実、派遣社員投入制度を始めた2007年から、時短勤務を取る美容部員が増えている。

あの制度がなかったら、美容部員の時短勤務は難しかった。事実、資生堂以外の化粧品メーカーで美容部員が当たり前のように時短勤務できる会社は、ほとんどない。

資生堂で経営企画室にいたとき、実はカンガルースタッフを作った担当のチームにいた。開始当初は、資生堂OGの女性に、「あなたの力が必要です」という手紙を出した。すると、かなり年配のOGからまで、「いつか資生堂の役に立とうと思っていたの」といった熱い返事が沢山届いた。

ただし、根本的な問題は、百貨店やドラッグストアなど小売り業者の営業が長時間化していることにある。一メーカーとしての資生堂は、立場が弱いので、営業時間が延びていくことに対応せざるを得ず、社内の負担は高まっていった。

百貨店の側から労働時間を抑制する動きも

――三越伊勢丹は、初売りを正月3日スタートへ後ろ倒しにして、4月からは一部の店舗で営業時間を短縮させるなど、長時間営業を是正するための取り組みに本腰を入れている。

資生堂の化粧品カウンターと美容部員(写真は三越銀座店内の市中免税店)

2年程前、三越伊勢丹の大西洋社長とテレビの仕事でご一緒したとき、「私は三越のファンだが、それでも、正月3が日の営業はいらないですよね」と言った(笑)。業界に先駆けて、従業員の労働環境を整える経営戦略を実行していることは、本当にすばらしい。

長時間労働をさせているのはこの国の法制度。一つ目は、時間外割増率の問題。現行の法制度では、「少ない人数で残業させた方がお得だよ」と、経営者に示しているのと一緒。時間内労働の1.25倍しか払わなくていいなら、経営者は当然、時間外労働に頼る。それを、欧米並みの1.5から1.75倍に引き上げたら、少ない人数で残業させるより、大人数で時間内に業務を終わらせる方が得だと判断するだろう。

二つ目は、労働時間の上限も、退社時間から出社時間までに一定の時間を空けさせるインターバル規制を、有名無実化していることだ。こんな国は先進国の中で日本だけ。EUは週35時間労働で、法律で48時間以上の労働は禁止されている。また、ドイツには閉店法があり、夜7時にはお店を閉めなくてはいけないので、客がいても追い出される。

時間外割増率が高く、労働時間の上限があるという法制度の下で初めて、短時間労働で成果を上げる新しいビジネスモデルに転換しようと思える。現状では、このモデルに転換しようとすると、長時間労働のブラックな手法で出し抜く企業に負けてしまう。

――今まさに政府にこれらを要望しているところ?

その通り。人口が減少して人件費が高騰するこれからの日本では、多様な人材を活用して、短時間労働で勝っていくための労働法制を早急に整備しないと、世界の中でジリ貧競争に陥って、自分たちで沈んでいくだろう。

資生堂の働き方改革をめぐる議論をきっかけに、「この国の法制度がおかしいんじゃない?」という議論を、きちんとしていかなければならない。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界、総合電機業界などの担当記者、「東洋経済オンライン」編集部などを経て、現在は『週刊東洋経済』の巻頭特集を担当。過去に手がけた特集に「半導体 止まらぬ熱狂」「女性を伸ばす会社 潰す会社」「製薬 サバイバル」などがある。私生活では平安時代の歴史が好き。1児の親。

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