資生堂、「子育て社員へ遅番要請」は是か非か 小室淑恵ワーク・ライフバランス社長に聞く

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――それが独身社員の不公平感につながった?

資生堂は1990年代から女性が長期キャリアを築ける環境を作ってきた(撮影:今井康一)

多くの企業で起きていることだが、育児中の社員を一律に配慮すると、「一律に配慮されない側への配慮はどうなんだ?」ということになる。

美容部員を束ねる営業担当は、店頭で美容部員に販売してもらわないと自分の成績が上がらない、という職種だ。だから、美容部員を一生懸命、支える。「育児中の女性を配慮しましょう」と指示されれば、しっかり守ってくれる。だが、配慮を徹底しすぎて、本人がキャリアアップをしたいか、聞けなくなってしまった。「遅番入れる?」と聞くこと自体がパワー・ハラスメントになったらいけないと、育児中の人は早番シフトにして、独身社員には「今月も遅番お願い」と頼むようになった。

そのため、配慮されている側の育児中社員は、「夜入れる日もあります」と言い出すことができなかった。育休復帰直後は、「短時間勤務を続けたい」と思っていても、子どもが成長すると意識は変わる。夕方の時間帯には、「お手入れ会」(同社で実施する美容部員によるエステのサービス)があり、「自分のお得意さんを担当したいな」という日も出てくる。報道では、「他の美容部員からの不公平だという声をきっかけにこの議論が始まった」とあったが、これには違和感がある。かつて私が担当していた20店の美容部員にヒアリングをしたところ、どちらかといえば育児中の社員からの声が大きかったようだ。

育児以外の「ライフ」にも目を向けるべき

――仕事のしわ寄せが行く独身社員にはどのような配慮が必要か。

「ワーク・ファミリーバランス」をやらないということ。つまり、家族がいる人だけに配慮をして、その分の働く時間を独身の人に付け替えてはならない。「ワーク・ライフバランス」のライフというのは、全員にライフがあるというのが前提。育児は目に見えやすいライフだが、家族が障害を持っている、自分が難病など、見てわからないライフは山ほどある。そうしたシビアなライフは全員が持っているのに、育児だけに目を向け、お茶を濁す企業というのは、家庭を持っている人といない人との間で対立構造が深まり、一枚岩になれないので、業績が落ちる。全従業員の働き方を見直す「ワーク・ライフバランス」が本質だ。

そうした意味では、資生堂は「カンガルースタッフ」(時短勤務社員の労働力を補うための派遣社員)制度を導入している。夕方に時短の社員が抜けても、普通は全部、独身社員に押し付けられるところが、別スタッフが来る。

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