なぜ、ここまで日本のサラリーマンの「やる気」は失せてしまったのか。前回紹介したエンゲージメントのグローバル調査を行っているAon Hewittによれば、アジア太平洋域の社員のエンゲージメントに影響を及ぼす主要因は、
①キャリアの機会
②報酬
③会社からの評価
④会社の評判
⑤ブランド価値
の順番だった。①については、さまざまな部署をたらい回しにする日本の「ジェネラリスト」信仰のもとで、専門的キャリアを積むのが乏しいのは事実だろう。それでは②の報酬はどれほどの影響があるのか。
生きていくために先立つものはカネ。ないよりはあったほうがいい。ただ、あればあっただけいい、と言うわけではなく、この額であれば、多すぎず、少なすぎず、完璧だというマジックナンバーがあるそうだ。その研究を2010年に発表したのが、「消費、貧困と厚生に関する分析」により昨年のノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のエコノミスト、アンガス・ディートン教授だ。
アメリカ人の「究極の年収」は7万5000ドル
彼はアメリカ人の「究極の年収額」として、年に7万5000ドルという数字が導き出した。円換算で1ドル115円とすると、862万5000円。人はこの7万5000ドルに達するまでは、報酬が増えれば増えるほど日々感じる幸福感が増すが、その額に達すると幸福感は増えないという。
ただ、これが持てるものと持たざる者が同じように幸せかというとそういうことではなく、より多くの報酬は自分の人生に対するもっと大局的な満足感を高める効果はあるそうだ。
この額を多いとみるか、少ないとみるか。国税庁のデータによれば、2014年の日本人の年間の平均給与は415万円。男女別でみると、男性514万円、女性272万円で、800万円以上は男性でも約13%、女性に至っては2%にも満たないという状況だ。つまり日本人の9割以上の人はこの「理想の報酬」にはたどりついていない。
一方で、アメリカはどうかというと、25歳以上の年間平均収入は3万2140ドル(1ドル115円換算で約369万円)。日本より若干低く、7万5000ドル以上は全体の12%弱と、日本より高いが、際立って多いという感じでもない。
低い賃金が労働者の生活の質や働き手のモチベーションに負のインパクトをもたらすことは間違いないが、一方で、「報酬」は「やる気」に最も影響を与える要因ではない、とする学説は少なくない。
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