ワインの近代化 その1 その背景:科学の発展《ワイン片手に経営論》第10回

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 さて、話をやや戻しますと、ここでご紹介した地動説と発酵のメカニズムを明らかにした共通の技術は何だったか、お分かりでしょうか。

 レンズです。ガリレオは天体望遠鏡、パストゥールは顕微鏡、両者ともレンズという技術によって可能となったものです。レンズは17世紀初頭では、最先端工業技術であり、1680年にオランダのアントニ・ファン・レーウェンフック(1632-1723)によって顕微鏡が発明されました。

ガリレオのものとされる望遠鏡のレプリカ(グリフィス天文台)
(Creative commons.Some rights reserve.Photo by Michael Dunn)
 レンズというものは、科学の発展に大きな貢献をもたらした道具です。さまざまなモノの詳細を丁寧に観察することを可能にし、「分析」することを容易にしたからです。レンズに頼らずに人間の視力だけでモノを認識できるスケールは一般に0.1ミリ~数十キロといった範囲だと思いますが、レンズのおかげで0.001ミリ~10数億キロ(木星までの距離)に広がったのです。

 今では、電子顕微鏡や電波望遠鏡、赤外線望遠鏡なども存在し、およそ10の-9乗ミリ(ナノ)~100億光年以上まで観察できるようになっています。ちなみに、私は大学で物理学科だったのですが、学科に入るときに先生が、「物理学は半導体から天文、つまり、10の-9乗ミリから100億光年以上をカバーした学問であり、これほどのスケールをもった面白い学問は他にない」と仰っていたことがありました。このようなスケールで科学を語ることができるのも、レンズのおかげであったということです。

 レンズを通してモノゴトを分析的視点でみることが、さまざまな現象を次々と明らかにしていったのです。現在では、かなりの対象物が分解・観察・観測され、人間のDNA配列という細かさまできてしまいました。しかし一方で、いまだに人間がなぜ存在するのか、なぜ人が生まれるのか、なぜ自律的に行動できるのか、といったことは分かっていません。かつて、モノを分析的に見ることで自然現象の説明に大きなブレークスルーをもたらし、これまでにある程度のことを説明してきたのですが、更にその先の疑問に答えようとすると、限界に来ている可能性があるということです。

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