「ブラック企業」がここまで蔓延する根本原因 実は日本型雇用システムの成れの果て

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「日本社会にも現実には『階層』が存在するが、覆い隠されてしまっているのが実情。これでは、立場に応じた政治的な利害調整が機能せず、真の民主主義は実現できない。『階層』の存在を真正面から認め、それぞれの立場の利害を積極的に調整することが、結果として格差を縮小することにもつながる」(今野氏)

正直、日本で「階層」の存在を認めることは、これまでタブーだったといえる。平等意識が殊更に強い日本では、すぐに受け入れられるものではないかもしれないし、反発を覚える人もいるだろう。しかし、ブラック企業はそうした「誰もが努力すれば人並み以上の生活が送れる」という幻想を利用して、労働者を追いつめていることは確かだ。伊藤准教授も、次のように語る。

「『休日はゆっくり休みたい』『残業代が欲しい』といったことは、労働者にとってあまりにも当然の要求のはず。これが経営者にとって『甘え』として認識されるのは、使用者と労働者の垣根が曖昧になっており、本来保護されるべき『労働者』概念が弱体化しているからだ」

使用者の指揮命令に基づいて時間を売る労働者と、会社の所有権である株式を所有し、報酬以外にも株式配当での莫大なリターンを取る可能性があるオーナー経営者とでは、根本的に立場が違う。こうした利害の違いを明らかにし、対立軸を明確にすることは、本来あるべき姿のはずだ。経営者はこのことを自覚して労働者を保護するべきだし、労働者も同じ立場で連帯して、自分たちの権利をはっきり主張するべきなのである。

「階層」の無自覚は、自己責任論を蔓延させる

現実に存在する「階層」を自覚しない考え方は、深く日本人の無意識に沈み込んでいる。「一億総中流」という言葉に代表されるような平等意識は、表面的には耳障りがよいため、ウケもよい。しかし、これには罠もある。あらゆる立場の人に対して過度の「自己責任論」を押しつけることにつながり、結局多くの人の首を絞める結果を招いているのではないだろうか。

「ブラック企業に文句を言ってる暇があるなら、辞めて自分で起業すればいい」といった発言が、社会的・経済的に成功している著名人から散見されるのが、いい例だ。誰しもがビジネスを成功させる能力を持っているわけではないし、現実にリスクを取ることができない人もいる。労働によってしか生計を立てられない人の方が、世の中では圧倒的多数だ。

日本における「階層」に対する無自覚は、エリートとして本来ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige「高貴なる者の義務」)を持つべき人間が、「普通の人」の立場を想像する力を持てない要因になっているような気がしてならない。それはまさに、労働者を駒としか考えずに使い潰す、ブラック企業のオーナーや経営者にも、そのまま当てはまることだ。

今野氏の指摘通り、「階層」の存在を認めることは、格差を許容することとイコールではなく、むしろ是正する力となり得る。能力のある人の足を引っ張らずに最大限支援する一方で、標準的な幸せを望む「普通の人たち」の労働環境は、社会としてきちんと保護する。そうした意識変化を起こすことが、ブラック企業の不条理な暴走を止める足がかりとなり、ひいては「日本社会全体のブラック化」を止める道を開くのではないだろうか。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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