「ブラック企業」がここまで蔓延する根本原因 実は日本型雇用システムの成れの果て

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

前提として、日本の雇用システムは世界の中でも非常に特殊な形であることを、まず認識する必要がある。日本では、入社前には職務の内容や勤務地などが本人には知らされなかったり、入社後もいつ別の職務を命じられるか分からないということが少なくない。また、法定勤務時間内、いわゆる「9時~5時」で必ず帰れるなどということはあり得ず、残業が必要と言われれば受け入れることが当然視されている。全て、労働者は会社の命令に従うことが「常識」だ。

一方、欧米の一般的な雇用契約は、そうではない。「保険商品の販売業務」「繊維加工機械の操作」といった具体的な職務(ジョブ)が先に存在し、求められるスキルや、職責が特定されている。職務の具体的中身や評価方法も一定になる傾向があるため、業務内容が無限定とはならない(成果で評価されるホワイトカラー層はこの限りではない)。自分の仕事の範囲を越えて他人の仕事を行うことは、職域を侵すことになるので御法度だ。

日本でも、いわゆる非正規雇用の場合は、このジョブ型の考え方が当てはまる。決められた時間で決められた職務をこなす、工場労働や派遣業務をイメージすると分かりやすい。これに対して、正規雇用(いわゆる正社員)の場合はそうではない。意外に思うかもしれないが、正社員(一般職は除く)として入社した人は、少数精鋭として採用された経営幹部候補という建前になっており、職務の対象は原則として無限定だ。

会社の労働者に対する命令は、ほとんど制限なし

職務が無限定ということは、欧米の一般的な雇用形態と異なり、自分の仕事と他人の仕事の区別がなく、どのような業務もこなすということを意味する。自分の仕事が早く終わった場合は率先して他の人の仕事を手伝ったり、本来自分がやる業務以外のことも、上司から頼まれれば取り組むなどといったことは、働いたことがある人なら誰しも経験があるだろう。

また、職務内容だけでなく、労働時間に対しても、会社には強い権限が与えられている。労使協定さえ結べば残業時間の上限はほぼない。労働者が残業を断れば、解雇も有効になることを判例も認めている。少数精鋭で採用されている以上、業務が増えた場合はその人員の範囲中で対応することが前提になっているのだ。

結果として、「どのような仕事を」「どのくらい」命じられるのか、ほとんど制限がないというのが日本の企業で働くことの特徴となった。労働者は、配置転換による新規業務に対して素早く適応する能力と、プライベートを犠牲にしてでも会社に尽くす生活態度までもが求められることになり、その全てが会社からの評価対象となる。こうした仕組みは、異常なまでの長時間労働や、その結果としてのうつ病や過労死を生み出し、既に1970年代頃から日本型雇用システムの「影」として、問題視されていたものだ。

ただ、少数精鋭かつ職務が特定されていないということは、労働者側に対しても有利に働く面もある。これが、ブラック企業が消し去ってしまった日本型雇用システムの「光」の部分である。

次ページ日本型雇用システムの「光」とは?
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事