ここで、残り「2」の枠をめぐる女子の戦いを振り返ってみる。昨年11月に開催されたさいたま国際は、吉田香織(ランナーズパレス)が2時間28分43秒で日本人トップ(2位)。優勝したエチオピア選手に約3分差をつけられており、日本陸連の派遣設定記録よりずっと遅く、選考評価は高くない。その点、福士は大阪国際で優勝しているうえ、タイムも先行記録をしっかり上回っている。大阪国際を終えた時点で、福士の評価はダントツトップなのだ。
最終選考レースは3月13日の名古屋ウィメンズだ。04年アテネ五輪金メダルの野口みずき(シスメックス)、12年ロンドン五輪代表の木﨑良子(ダイハツ)、14年横浜国際優勝の田中智美(第一生命)らが出場を予定している。前回大会で2時間22分48秒の好タイムをマークした前田彩里(ダイハツ)は欠場することになり、現在の実力を考えるとモスクワ世界選手権4位で2時間23分34秒のタイムを持つ木﨑が日本人トップの本命だ。
選手選考で福士が名古屋を走る2名に“敗退”するとすれば、「福士のタイム(2時間22分17秒)を上回る選手が2名以上出ること」が最低条件となる。極めて“高いハードル”を2名がクリアしないといけないことになるが、その可能性もゼロではない。そこで、福士を擁するワコール陣営が考えたのが、福士自ら出場させて、「日本人2位以内」に入り、自力で日本代表を奪うことだった。
過去のマラソン選考を考えると、どんなに好タイムでも、直接対決で負けた選手が先着したランナーを抑えて選ばれることは絶対にないからだ。しかも、国内選考レースを複数走った場合、最初のレースしか選考対象にならない(ただし、2回目以降のレースでも設定記録を突破した場合のみ評価される)。仮に福士が凡走しても、評価が下がることはない。途中棄権したとしても、意図的にペースを上げ下げして、有力選手の体力を消耗させることもできるわけだ。
福士の"強行出場"はデメリットも大きい
ただし、代表に選出される可能性の高さと、無理を押して走って故障するなどのリスクを考えると、「強行出場」する意味は薄い。筆者は、福士は名古屋を走らないと見ている。
福士はオリンピック、世界選手権、日本選手権などビッグレースに向けて、大きな波をつくるようにピークを合わせてきた。レース後には“ご褒美”として、数週間の「休養期間」が与えられ、再び「走る意欲」が沸くまで充電。心身ともにリフレッシュしてから、次の目標に向けて、大きな波をつくるという作業を繰り返してきた。
大阪国際で、狙い通りに「派遣設定記録突破で優勝」という果実を手にした福士にとって、いまは「もう走ることは考えたくない」という状態なのは明らかだ。名古屋ウィメンズは大阪国際の6週間後。そのタイトなスケジュールのなか、気持ちで走るタイプの福士を快走させるのは難しいだろう。
仮に名古屋に強行出場することになれば、そのダメージは大きい。たとえオリンピック代表を勝ち取ったとしても、今後のトレーニングに影響が必ず出る。筆者にとって大学陸上部の大先輩にあたる永山監督は、そんなことを誰かに指摘されなくても、十分に理解しているはずだ。だから、福士は名古屋に出場することはないと筆者は思っている。オリンピック(1万m)に3度出場している福士にとっては、「オリンピック代表」がゴールではなく、「メダル」が最大のターゲットなのだから。
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