では、なぜ永山監督は福士の「名古屋出場」をマスコミに話したのか。大きな理由はふたつある。ひとつは、名古屋に出場する選手にプレッシャーをかけること。もうひとつは、明確ではない選考基準に対する“問題提起”だ。
「名古屋出場」は「オリンピック代表」を確実にゲットするために、あらゆる“可能性”の一部を口にしただけではないかと思う。合理的に考えれば、永山監督はどこかのタイミングで「欠場」を表明することになるだろう。
永山監督はなぜそこまで神経質になっているのか
永山監督がそこまで神経質になるのには、ワケがある。過去の日本代表選考で不透明なジャッジが繰り返されてきたからだ。バルセロナ五輪(92年)の「有森裕子vs松野明美」をはじめ、マラソンの五輪代表選考は過去に何度も論議を呼んできた。
直近の世界大会となる北京世界選手権(15年)の女子選考も荒れ模様だった。名古屋ウィメンズで2時間22分48秒という好タイムで3位に入った前田彩里(ダイハツ)は「当確」で異論なかったが、残り「2枠」については関係者全員が納得できる状況ではなかったからだ。
名古屋ウィメンズ4位(日本人2位/2時間24分42秒)の伊藤舞(大塚製薬)と、大阪国際3位(日本人トップ/2時間26分39秒)の重友梨佐(天満屋)が選ばれ、横浜国際を2時間26分57秒で制した田中智美(第一生命)が落選した。マラソンは気象条件、レース展開がタイムに大きく影響する。過去の代表選考では、「タイム」より「勝負強さ」が評価されてきたものの、真逆のジャッジになった。
そのときの日本陸連の回答を要約すると、「勝つことよりも世界で戦う意識を見せることが大切。田中選手の優勝は評価できるが、序盤で先頭集団から遅れるなど世界と戦うには物足りない。それに比べて重友選手は、派遣設定記録(2時間22分30秒)を目指して積極的にレースしたことが評価できる」というものだった。しかし、こんな回答で納得できるわけがない。「レース内容で選ぶとなると、いくらでも理由はつけられる。それよりも勝つことが大切だと思いますよ」と問題視する実業団監督もいた。
北京の選考を考えると、名古屋ウィメンズで福士のタイムを上回る選手が2名以上出ると、「当確」と見られていた福士がはじき出される可能性も出てくる……。そういうワケなのだ。
マラソン選考については、米国のように「1発選考」がいいのでは? という声もあるが、テレビの放映権も絡んでおり、その“調整”は簡単ではないようだ。オリンピックは4年に一度。アスリートの年齢を考えると、チャンスは数回しかない。複数の大会を選考レースにするとしても、主役であるはずの選手が納得できて、しかも世界で戦える選手をピックアップできる“選考基準”を設けることはできると思っている(詳しくは著書『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』で触れている)。
選考レースを走り終えた選手たちがスッキリした状態で、次の戦いに向かうことができれば、オリンピックの“結果”も変わってくるだろう。福士の起こしたアクションを日本陸連はしっかりと受け止めて、明るい未来につなげていただきたい。
(=敬称略=)
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